こんにちは、manotchです。
デジタルオーディオにおいて「USBケーブルで音質は変化するのか」というテーマは、長らく議論の的となってきました。「デジタルデータ(0と1)の伝送である以上、音質変化はオカルトである」という主張がある一方で、聴感上の違いを訴えるユーザーも少なくありません。

本記事ではこの議論に対し、オシロスコープを用いたタイムドメイン(時間領域)での波形観測という物理的なアプローチから検証を実施しました。結論から言うと、検証した測定系においてUSBケーブルは明確な「ノイズの混入経路」として機能し、D/A変換後のアナログ出力(LINE OUT)における残留ノイズを物理的に増減させることを確認しました。つまり、ノイズが増加することにより音質に悪影響が出る可能性があるのです。
従って「USBケーブルで音質は変化するのか」に関する見解は、検証結果から「Yes」と考えます。
目次
測定環境と検証アプローチ
検証にあたり、下図の測定系を準備しました。

- 測定系:PCから市販のUSB DAC(LiNKFOR製 USB DAC)へ接続
- USBケーブル:市販の一般的なUSB-A to USB-Bタイプ(全長1.5メートル)
- 測定条件:無信号状態(デジタルゼロ)
- 観測手法:DACのアナログ出力(LINE OUT)の波形をオシロスコープにて直接観測
データ転送のエラー(ビット落ち等)ではなく、周辺環境や上流機器からの電気的ノイズを受けたことにより、USBケーブルを接続する事で、DAC内部のアナログ段にまでどのような影響を及ぼすか実際に実測して検証する事に焦点を当てています。
検証結果:2つのノイズ混入経路による影響
① 空間からの電磁干渉による「輻射ノイズ(Radiated Emission)」の可視化
まず、USBケーブルに対し外部から電磁的な干渉を与えた場合の挙動を観測しました。市販の電動歯ブラシ(モーター搭載機器)を準備し、USBケーブルに接近させたところ、オシロスコープのベースラインに明確なノイズ波形が重畳しました。(下記動画)
これは、USBケーブル自体が一種の「アンテナ」として機能し、モーターから発生する電磁波を拾い上げてしまった(空間伝導)ことを示しています。シールド性能の低いケーブルでは、こうした外来ノイズがアナログ段のS/N比を悪化させる要因になると考えられます。

② 導体を直接伝わる「伝導ノイズ(Conducted Emission)」の可視化
次に、上流機器(PCやルーター等)からグラウンドやVBUSラインを介して侵入するノイズの検証を行いました。無信号時にも関わらず、オシロスコープ上にはパルス状の高周波ノイズが観測されていましたが、PCからUSBケーブルを抜線した瞬間にこのノイズは消失しました。(下記動画)
これは、スイッチング電源等に由来するPC側の高周波ノイズが、USBケーブルの導体を「糸電話」のように伝播し、DAC内部の回路へ侵入し、最終的なLINE OUTへと出力されることを裏付けるものです。
こうしたノイズはアナログ段のS/N比を悪化させる要因になると考えられます。録音データをWAVファイルにしましたので聴いてみてください。
PC由来のノイズが多いせいか、録音のボリュームを上げると無信号状態でも色々なタイプの残留ノイズ(ジャーという音やボツボツという音など)が聴こえています。これはデジタル回路由来(PC、ルーター、スイッチなどの上流)のノイズと考えられます。
総括:USBケーブル「音質変化」のメカニズム
今回の検証により、USBケーブルの変更やノイズ対策によって音が変わるという現象は、決してオカルトではなく、輻射ノイズや伝導ノイズといった「物理現象の積み重ね」によって説明可能であることを実証しました。ケーブルのシールド構造や、PCからUSB DACアンプを経由するUSBケーブル導体のつながり(専門用語:グランドループ、又はループと呼ばれる)が、アナログ出力の残留ノイズに直接的な影響を与え得るということです。

一方で、「ケーブルを変えても音の違いが分からない」という主張もまた、工学的な観点からは真実といえます。測定環境自体のバックグラウンドノイズが極めて低い(クリーンな)環境や、ガルバニック絶縁などの優れたノイズアイソレーション対策が施されたオーディオ機器においては、ケーブル由来のノイズが聞き取れないほど改善しているケースも考えられるからです。
※クリーン環境の実現については、上流機器の電源をノイズが発生するスイッチング電源からリニア電源に置き換えるなどの対策も有効です。
しかし、現時点では理想的にノイズを0にする技術は十分確立されておらず、各社ノイズ対策への取り組みが続いているようです。今回使用したUSB DACはSNR(信号対ノイズ比)のスペックが90dBという表記ですが、現実にはPCからの影響と思われる残留ノイズが録音で聞き取れるほどに悪化していました。

スペックは一般的に理想値であり、どんな環境でも保証されているわけではありません。オーディオメーカーはユーザーの様々な使用状況を再現できているわけではないのです。あくまで参考値と考えた方が良いでしょう。その為、USBケーブルにノイズ対策を施す事で音質が変化すると考えられます。
従って、USBオーディオの音質追求はデジタルデータの整合性だけでなく、高周波ノイズとアナログ回路との干渉(EMC対策)という視点を持つことで、より確実なアプローチが可能になります。
また、今回は触れませんでしたが、いわゆるビットパーフェクト(0と1が正しく伝送されている状態)でも音質が変わるという現象についても解明が進んでいます。代表的な例は昨今流行中のネットワークオーディオですが、ビットパーフェクトで伝送されていても音質が変わる事が、ホットな話題となっています。これらはデジタル波形の時間軸応答性が、ジッタ(ノイズによる時間軸の揺れ)や振動などで影響を受け、音質が変わるためと考えられています。
【後日談】 嫁とリニア
技術検証の裏側には、往々にして日常の風景があるものです。今回の実験中、嫁との間で以下のようなやり取りがありました。
嫁「何コレ?何の図?」
ワイ「ケーブルで実験したのでその測定系だよ。」
嫁「オシロって何?」
ワイ「オシロスコープの略。電圧波形を見ている。」
嫁「リニアってことは磁石で浮くやつ?」
ワイ「そりゃリニア中央新幹線でしょ!!リニア電源はオーディオで使われる、キレイな電源なんだよ。」
嫁「分かった!あたし、理科で4か5だったし!」
ワイ「……(つ、疲れた。理科が良いのは分かるけど)」
オーディオにおいて、スイッチング電源特有の高周波ノイズを避けるために導入される「リニア電源」。その重要性を説明する前に「磁石で浮く」という発想が出てくるあたり、専門用語の壁を感じずにはいられません。
しかし、日夜オーディオの謎を探求するエンジニアにとって、こうした家族の理解(?)と明るさは、オーディオを探求する上でのほどよいスパイスであり、様々な外来ノイズから解き放してくれる、ある意味最高の「ノイズフィルター」なのかもしれません。
今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。
【コラム】
下記の記事はネットワークオーディオの上流、ルーター、スイッチ、WiFiに低ノイズなリニア電源を採用する事で音質を改善した事例です。
ブログランキングに参加しました。面白いと思ったらぽちっと応援してくださいね。
にほんブログ村

