こんにちは、manotchです。オーディオ界隈で時々話題になるのですが、『アンプで音質は変わらない』と断言する方がいることです。専門家の意見やユーチューバーの動画を見ましたが、えっ?そうなの?と思いました。アンプの特性はオーディオの周波数帯で測定しても殆ど変わらないから人間は検知できないという事らしいです。それって本当でしょうか?

■アンプで音質は変わる。変化が分かるかは程度問題。

個人的な見解ですが結論から言うと『アンプで特性も変わるし音質も変わる。変化が分かるかは程度問題』だと考えています。そこで自分なりに『アンプで特性も変わらないし音質も変わらない』という話は本当かどうか?を測定器を使って実測し、音質でも確かめてみようと思います。今回は一例ですが周波数特性が同じで音質が異なるアンプを作成しましたので後ほど音を聴いてみましょう。

実際に試作したシンプルな1段アンプです。

ゲインは5倍で設計しました。ヘッドホンアンプはこれくらいのゲインが多そうです。2つのアンプは同一回路で出力波形の下側が歪んでいるアンプと歪んでいないアンプです。入力レベルだけ変えることで波形の歪が変わるように設計します。

アンプの出力波形をLTSPICEでシミュレーションします。周波数特性はどうなっているかも確認しておきます。

結果はアンプA歪なし状態とアンプA歪あり状態で周波数特性は同じになっています。回路図の定数は同じにしましたので定数の違いによる音質の差分は無いものとして考えます。

グラフの見方ですが、周波数特性と書いてあるのは横軸が周波数、縦軸が出力の大きさになります。この結果を見る限り、歪があっても無くても周波数特性が同じ場合があるという事になると思います。

周波数特性は歪に関係なく同じ周波数の音の大きさ(成分)が同じなら周波数特性は同じになります。つまり周波数特性は音質の全てを表現するものではないという事が分かります。

下記の写真は実際に作成した歪がない方のアンプの入出力波形です。抵抗値やコンデンサの値はテスターで設計と相違がないか確認しています。青線が入力、黄色線が出力。ゲインは5倍でシミュレーション通りです。

次は入力レベルを上げてわざと歪んだ波形出力になるようにした状態です。

こちらの波形も想定通り下側がクリップして歪んだ状態です。この状態でクリップなしとクリップありで周波数を変化させ可聴帯域での周波数vs出力特性(音の大きさ)を測定し、ゲインをプロットします。

さて、実際に上記の回路でアンプAを自作し、歪なしと歪ありで音質を比較しました。動画の最初は歪なし。途中から歪ありです。同じ音質に聞こえるでしょうか?

実際にXに投稿して聴いてもらったのですが、音が違いますねとコメント頂きました。最初は1KHzの歪がない正弦波の音、途中から下側の波形がクリップして歪んでいる正弦波の音です。

歪がないと綺麗なピーーという音ですが、歪むとビーーというちょっと嫌な音が混じったように聴こえます。専門家やユーチューバーの話では周波数特性が同じなら音質の差はないし、たとえ違っても0.1dBくらいしか変わらないから人間の耳には分からないという話をよく聞きます。しかし、この実験で聴いて見る限りそうとも限らないわけです。

今回の実験の周波数特性の実測値とシミュレーション値で概ね一致しており妥当性があるように思います。Xの投稿を見たLTSPICEを使用している方々にもコメント頂いたのですが周波数特性に非直線性(歪)は表現できないということをおっしゃっていました。つまり『周波数特性が同じ=音質が同じ』とは限らない。です。

※周波数特性は例えば中域に対して低域が持ち上がっているとか高域も持ち上がっていてドンシャリの音になっているとか帯域バランスの傾向を見たり、その他特定の周波数にピークが出てここはおかしい、といったような使い方に有用な測定方法だと思います。周波数特性の測定を否定するものではありません。

■アンプ擬人化座談会開催~♪

『manotch』さて、今回はブログに登場したことのあるアンプ達をゲストで呼んでいます。

『CA215さん』最近、スピーカーで聴いていないんでアンプ使っていなかったでしょ。酷いわねー。
『manotch』ぎくっ!!

『CA215さん』カーオーディオ用アンプの擬人化です。ちょっと命令口調の多い方です。

『CA215さん』manotch!アンプの音質はみんな同じっていうけど、もし同じだったら私たちはどうなるの?説明して頂戴!
『manotch』うーん、そうだなー。音質が同じならキャラも同じという事になるな。キャラが一つで済むわ。こりゃ楽だな。
『CA215さん』そんなことあるわけないでしょ!!ちょっと、アンプで音質が変わるという何か証拠を出してよね!

■アンプに使う部品の特性はまちまち

・・・という訳で何か無いかなということでアンプに使う増幅素子『トランジスタ』の特性を比較してみることにしました。アンプを構成する基本的な電気部品です。はい、こちら!

2つの違う品種のオーディオ用トランジスタAとBの特性を重なるようにしてみました。 グラフはトランジスタに電圧をかけた時に流れる電流を比較したものです。AとBのトランジスタを使ったアンプの音は同じだと思いますか?


『CA215さん』ふーん、少なくとも特性が違うんだから同じ音になるとは思えないわ。
『manotch』そうだね。これはコンプリメンタリと言って電気特性を揃えているトランジスタなんだけどそれでもこれだけ違う。

電流増幅度(hfe)という別の電気特性の指標もあるけどトランジスタの特性はばらつくので同一品種のトランジスタでも電流増幅度が70~700というように10倍違う事もある。だからオーディオ用アンプではばらつきを抑えるためトランジスタを選別(ランク指定)したものも良く使うよ。
『CA215さん』なるほど、そういう事で特性を一定にする事をメーカーはやっているという事ね。

入出力特性が音質にどの様な影響を与えるのですか?という質問を頂きました。入出力特性が直線に近いほどアンプの出力波形の歪みが小さいと考えられます。トランジスタAとBは線の曲がり方が違うので歪みの形も違うと考えられます。例えば波形の歪が酷いと音が割れたり、耳障りだったりして音質に影響が出ると考えています。

■トランジスタの差による音質差

トランジスタを変更したときの音質ってどうなるか実験している方って既にいるのかなぁーという事でネットで調べたらヘッドホンアンプを自作して比較している方がみえましたのでご紹介させて頂きます。非常に詳しいですね。コレ、最初に見ておけばよかったなー(苦笑)

トランジスタの音質を比較する
http://blog.livedoor.jp/indigo_illusion/archives/1023696317.html

トランジスタによって音質は様々に異なるという記事です。アンプは数個から数十個程度のトランジスタを組み合わせて構成されます。組み合わせを考えた場合の音質ってどうなるんでしょう。オーディオは奥が深いです。

今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。

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By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。

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