オーディオ界隈で時々話題になるのですが、『1と0しかないデジタルオーディオの音質は変わらない』と断言する方がいることです。インターネットでブログなど拝見しましたが、えっ?そうなの?と思いました。デジタルオーディオの特性はオーディオの周波数帯で測定しても殆ど変わらないから人間は検知できないという事らしいです。

■1と0しかないデジタルオーディオでも音質は変わる。変化が分かるかは程度問題。

個人的な見解ですが結論から言うと『1と0しかないデジタルオーディオでも音質は変わる。変化が分かるかは程度問題』だと考えています。そこで自分なりに『1と0しかないデジタルオーディオでは音質は変わらない』という説は本当かどうか?を測定器を使って実測し、音質でも確かめてみようと思います。

■音質=周波数特性、歪、ダンピングファクター?

音質の定義はあいまいです。そのため音質=周波数特性、歪、ダンピングファクターで表現できると考える方もいるようです。それって本当でしょうか?こういう時はJISで確認してみましょう。JISは日本産業規格(JIS=Japanese Industrial Standards)の略です。

日本の産業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格になっています。いわゆるお墨付きの見解です。それによると音色という定義があります。これが音質に相当する文言のようです。

JIS Z 8106-1988[音響用語(一般)]より引用

801-29-09 

音色(ねいろ) 

聴覚に関する音の属性の一つで,物理的に異なる二つの音が,たとえ同じ音の大きさ及び高さであっても異なった感じに聞こえるとき,その相違に対応する属性。 

備考 音色は,主として音の波形に依存するが,音圧,音の時間変化にも関係する。

言っている意味をデジタルオーディオ的な観点で解釈すると、『Aというデジタルオーディオ機器』と『Bというデジタルオーディオ機器』が同じ音の大きさ(dB)と周波数(Hz)であっても異なった感じに聞こえるとき、それが音質の差ということになりそうです。

つまり、音質の差の定義は『Aというデジタルオーディオ機器』と『Bというデジタルオーディオ機器』が何らかの方法で異なったと感じれば良いわけです。あれ?周波数特性とか歪とかダンピングファクターとかで測定するとはどこにも書いていないですね。べつに耳で聴いて音の差があると思えば音質に差があるといって問題ないことになりそうです。

つまり、周波数特性や歪、ダンピングファクター=音質⇒特性が変わらないから音は変わらないと断言するのはちょっとどうかと思う訳です。言い換えると周波数特性、歪、ダンピングファクターだけで音質が表現できるというのは思い込みではないでしょうか。何か裏付けはあるのでしょうか?

■周波数特性、歪、ダンピングファクターが同じであれば音は同じという誤解

どうしてこうなったか?

以前業務でオーディオにかかわってきましたので多分こうだろうなーと思い当たるのですがそれはオーディオメーカーに責任があるかも。です。自爆ですね。(苦笑)

オーディオの歴史を振り返ってみるとそれはスペック競争から始まっているように思います。歪率は小さい方が良さそうですし、メーカーも歪率0.0006%を実現!とかやっていましたのであたかも音質=歪率だよね。となっていったように思います。まぁ、今でもそうですけどね。周波数特性もダンピングファクターも同じようなものです。歪率が同じでもモデルが異なれば音質が違うという事も良く経験したことです。※もちろん、スペックが良くて音も良ければ最高です。

品質に異常がないかという観点で測定して記録することはやっていましたが・・・。音質と歪率が相関があると思ったのは回路やパターンなどに原因があって歪が悪化して、それを改善することで歪が良くなり音質も改善するというものです。

そういった売り文句で長年売って来たので周波数特性やスペックを皆、気にするようになったのはしかたがないのかもしれません。ただ、そういった事でしか定量的かつ客観的に製品の良しあしを判断できそうな項目が見当たらないというのもあると思います。これは音質を評価できる良い測定系が無さそうという問題ですね。

個人的な見解ですが周波数特性、歪、ダンピングファクターは製品が正しく動作しているか、異常はないか、品質がばらついていないかという設計や品質の指標と考えています。

もちろん、音質と相関がある部分もあると思いますが一部分でありそれが全てではありません。

しかし、技術が進捗し既存のスペック(周波数、歪、ダンピングファクター)ではある程度の性能が出てしまうようになった昨今ではオーディオメーカーも測定器メーカーも音質を評価できるような測定系や売り文句となるようなスペックを検討する必要があるのかもしれないと考えます。

■音に関する考慮すべき項目は多い(JISより抜粋)

では、どれくらいの音に関する要素があるかJIS国際規格から用語をいくつかピックアップしてみます。こんなにあるのか!という感じですね。良く分からない項目もありますが、一部分を抜粋してみます。

周波数特性、歪、の項目はありますね。ダンピングファクターはちょっと見当たりませんでした。これを見ると音に関するファクターは多くあるのに対し、周波数特性、歪、ダンピングファクターのみで評価する方法は断片的な評価だという事は明らかでしょう。

それからJISに記載されているインピーダンス、雑音や位相などの項目も音質と関連がありそうです。例えば右の耳と左の耳でわずかに音が到達する時間の違い(位相の差)から人間は音がどの方向からやってくるかを検知しています。オーディオで言うとステレオの音場の広がりや楽器がどこで鳴っているかの定位にも関係すると思います。専門用語に関しては大体こんな項目があるという理解で良いと思います。読み飛ばしてもらっても構いませんが興味のある方用に、項目と意味合いを抜粋して追記しました。

JIS Z 8106-1988[音響用語(一般)]より引用  音にかかわる項目を一部抜粋

・可聴音/超低周波音 可聴音の下限周波数(およそ16Hz)以下の周波数の音響
振動。 /・可聴音の上限周波数(およそ16kHz)以上の周波数の音響振動。

・複合音 /単純な音響振動ではない音。震音 /周波数が平均値を中心として周期的に変化する音。 

・雑音 /不規則な又は統計的にランダムな振動。 

騒音 /不快な又は望ましくない音,その他の妨害。 ランダムノイズ 

白色雑音,ホワイトノイズ /本質的に周波数に依存しないパワースペクトル密度をも
つ雑音。 

ピンクノイズ /周波数の逆数に比例するパワースペクトル密度をもつ雑音。 

周囲雑音, 環境騒音 / 定められた場所で,それを取り囲む音。通常,その場所
にかかわりない多くの音源による音が混ざり合ったもの。 

背景雑音, 
暗騒音 /信号の生成,伝送,検出,測定又は記録に用いるシステムの中にあるすべての音源からの妨害の全部。 

残響 

音源が停止した後に繰り返される反射又は散乱の結果として空間に持続する音。 

音響スペクトル /周波数の関数として複合音の成分の大きさ(場合によっては位相も)を表したもの。 

瞬時音圧 /媒質中のある点で,対象とする瞬間に存在する圧力から静圧を引いた値。 

音圧 

特に指定しない限り,ある時間内の瞬時音圧の実効値。

点音源 

あたかも1点から音波を放射しているとみなせる音源。 

音源の音響出力, 
音源の音響パワー

音圧レベル/帯域音圧レベル, 
バンド(音圧)レベル 

インピーダンス ・・・

ある周波数において,(力又は音圧といった)力の量を
(振動速度又は粒子速度といった)運動の場の量で除し
た値。又は電圧を電流で除した値。 

備考1. インピーダンスという用語は,一般的には,線形系,かつ,定常な正弦信号に対して適
用される。 

2. 過渡的な場合には,周波数の関数としてのインピーダンスは,それぞれのフーリエ変
換又はラプラス変換した量の商である。 

3. インピーダンスは,その積がパワー又は単位面積当たりのパワーの単位をもつような
二つの量の商である。 

歪・・・波形の望ましくない変化。 

備考 ひずみは,次によって生じる。 

a) 入力と出力間の非線形関係 
b) 異なる周波数での非均一性伝搬 
c) 周波数に比例しない位相変化 

JIS規格はお金を出せば本でも購入できると思いますので興味のある方は参考にしてもいいと思います。

■測定器と人間の耳の違い

オーディオの性能評価というとオーディオプレシジョンというリファレンス的な測定器があるわけですが測定値(周波数特性や歪などetc…)が良いからと言って必ずしも音質が良いわけではないのは何度も経験したことです。いやーさんざん痛い目に遭いましたねー。(涙)

残念ながら音質を評価する場合、現在の所、多くの場合耳に頼らざるを得ないのが実情です。これは耳の方が優れているといった優劣が言いたいわけではなく、現在の測定器による評価と耳による音質の評価は異なる次元のものだからだと思うのです。

例えばオーディオの測定をする装置に関してですが一般的に正弦波の信号を入力してその出力がどうなるか信号のレベルをプロットしていきます。しかし、人間は正弦波を聴いても特徴のない音なので多少歪んでいても気が付きません。そして実際の人の声や楽器は単純な正弦波ではありません。

それぞれの音色の個性があり特徴がある音を聞き分ける、言い換えると音を解析できるのが人間の耳の特徴だと思います。人間が容易にできるギターとピアノの音の判別ですが、周波数測定や歪率、ダンピングファクターなどといった測定ではいくら測定しても音の判別はできません。

オーディオの測定装置は現在の所、人の声や楽器の音色(音質)の差が分かる良さそうな装置が無さそうに思います。

つまり、音質の差が分からない測定器や評価方法でいくら測定しても音質の差は分からないのではないかと思うのです。

測定方法もあらたな評価方法が必要かもしれませんね。

そこで購入したのがこちら!

スペクトルアナライザとネットワークアナライザです。どちらも1万円弱程度で購入した測定器ですが過去何十万、何百万とした測定器が今では気軽に購入できる良い時代が来たものです。

■デジタル回路から発生する高周波ノイズで音質が変わる(動画とWAV音声)

デジタルオーディオでは音質が変わらないという説も分かりやすい反例を出していきます。

わざとケーブルの配線を音質が悪くなるように結線してみます。一例として電源のグランドケーブルをループさせてみます。ループというのはドーナツの輪のようなイメージです。通常、オーディオ機器同士のグランドは一本の線になるように配線します。所がグランドの線がオーディオ機器を通してぐるっとドーナツの輪のように配線されてしまう場合があります。

そうすると様々なノイズを拾いやすくなり音質が悪くなります。ループしてしまうとノイズが多かったり、違和感のある音になるので音質を良くしたいならループを極力なくす必要があります。

さて、動画の例はわざと真空管ヘッドホンアンプとFiiO K7 DACの電源のグランド線を2か所繋いでさせループを作った事例です。こうする事でハムや汚いデジタルノイズがグランドに乗った状態になりました。

この状態でFiiO K7 DACの電源をON/OFFさせてみます。スペクトルアナライザでK7から発生する輻射ノイズを測定してみましょう。静止画と動画をアップロードしたので見比べてみてくださいね。

【FiiO K7 DAC電源オフ状態】

こちらが50KHzから300MHzまでの周波数帯の輻射ノイズをロッドアンテナで拾ってスペクトルアナライザで測定している所です。ノイズのグラフをよく覚えておいてください。横軸が周波数で縦軸はノイズレベルです。縦軸の高さが高いほどノイズが出ていることを示しています。

そして、FiiO K7 DACの電源をオンにしたときのノイズ波形が下の写真です。大きく分けて3つのノイズ源があることが分かりました。FiiO K7 DACの電源をオフにしていても100MHz帯で発生するノイズはFM放送の電波を拾っているようです。また、真空管ヘッドホンアンプを駆動しているスイッチング電源があるのですがそれは20MHzあたりにピークがあるようです。

こちらは真空管ヘッドホンアンプの電源をオフすればノイズは消えます。その他にもUSBケーブルの抜き差しでもノイズレベルは増減することもわかりました。ノイズ対策は多岐にわたるので対策も大変ですね。面白いとも言えますけどキリがないとも言えます。

業務で対策するときはノイズ規格があるのでマージンをもって規格を通せる程度に行います。余り過剰に対策すると音質が悪化する場合も多いです。

【FiiO K7 DAC電源オン状態】

下の写真ではK7 DACから発生する輻射ノイズレベルは電源オンオフで15dBほどアップ(概ね電力比で30倍になる)するように見えます。

そしてFiiO K7 DACの電源をオンオフしたときの真空管ヘッドホンアンプの出力を録音した様子がこちら。音の方は開放型ヘッドホンの背面から音を拾っているだけなので良く聞こえないかもしれません。後ほどWAVファイルの高音質版をアップしましたので音質はそちらを聴いて見てください。

動画の下側にFiiO K7 DACが写っていますがボリュームを最小に絞ると緑色のLEDが消え電源がオフになります。

電源をオンにしているとき嫌な高音の無機音が出るのですがこれはDACからの高周波デジタルノイズがアナログ回路のグランドに混入したことでオーディオの周波数帯(可聴帯域)まで聴こえてしまったと思われる例です。結構酷い音でしょ。程度問題ですのでこれほど酷くはないもののノイズ対策がないとこういう音を聴いていて、あれ?なんか音が悪いなぁとかいう事になっていると思います。

その時の音をzoom H4 essentialで96KHz,32bitの高音質wavファイルで録音したのが下記になります。音質の方はこちらのWAVファイルで聴いて見てください。デジタル回路から出るノイズはこんな感じに聞こえているんだなぁと分かると思います。デジタルオーディオでなんとなくモヤっとした音になったり、頭が痛くなるような音が出る場合はこういった可聴帯域で聴こえるデジタルノイズの音が音楽に含まれるのが原因かもしれませんね。

特に電源をオンオフする瞬間にビィーーッという汚い音がしますね。これはK7 DAC内部にもスイッチング電源がありますので電源変動によって少しスイッチング周波数がシフトするためだと推測します。さらに良く聞くと電源オフの時でもまだ嫌な音が出ていることが分かりました。こちらはUSB周りかもしれませんが全ての嫌な音が出る原因は今の所、追い切れていません。

しかし、ひどい音質になっていますね。これは程度問題なのでこれくらい酷いとすぐわかる状況ですが、実際には聴いてもわからない程度のことが多いのだと思います。オーディオが好きな方で同じ曲をいつも聴いていると音質の変化に気が付きやすいと思います。これが音質の変化はあるが程度問題という事になると思います。

■総括

如何でしたでしょうか。個人的な見解ですが下記になります。

『デジタルオーディオの音質は変わらない』ではなく『デジタルオーディオの音質は変わる。変化が分かるかは程度問題』

なぜ1と0しかないデジタルオーディオで音質が変わるのか?

理想的には1と0のデジタルオーディオでは音質が変わらないという事になるかもしれません。しかしながら音質が変わることが事実なら、それはデジタルオーディオの技術がまだまだ未熟で進歩の余地があるからだと思うのです。

『ノンマル=コモンさん』今日はmanotchが電源ケーブルから侵入経路を作ってくれたので自由に飛び回れて楽しかったわ。

当サイト名物、オーディオ擬人化です。今回は高周波ノイズの擬人化です。白い稲妻は外部に飛び出る不要輻射(電波)をイメージしてみました。高周波ノイズは0にすることが不可能に近く、不滅の存在です。

今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。

■おまけ

今回録音に使用したzoom H4 essentialですが96KHz,32bit録音ができるという事で購入しましたがこれは良い出来ですねー。値段も手頃だし音も凄くいいです。技術の進歩を感じます。機会があったらレビューしますね。

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今回測定に使用したスペクトルアナライザです。安価ですが使えます。一台あると便利ですね。

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By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。