電源タップFUARMAN SS6Bの写真電源タップFUARMAN SS6Bの写真

電源環境はオーディオの「基幹インフラ」

現代のオーディオおよびホームシアター・システムにおいて、電源タップなどの環境整備は単なるアクセサリーの域を超え、システム全体のパフォーマンスを規定する基幹インフラストラクチャとなっている。

オーディオ機器がスピーカーやアンプを駆動し、音楽を聴くためのエネルギー源は、家庭用コンセントから供給される交流電源(AC)である。このAC電源を直流(DC)へと変換し、増幅回路や信号処理回路を動作させる過程において、電源ラインに重畳したノイズや電圧変動は、再生音の解像度、動特性、そして空間表現力に直接的な影響を及ぼすと考えられる。

以前、筆者宅の交流電源(AC100V)の電源タップから発生する電圧をオシロスコープで観測したところ下記のような歪んだ波形となっていた。

筆者宅のAC100Vをオシロスコープで観測。歪んだ波形となっている
筆者宅のAC100Vをオシロスコープで観測。歪んだ波形となっている

本来は綺麗な正弦波であるのが理想である。ここまで歪んでしまう理由としては、家庭まで電源が供給されるまでの間にコンセントや電源ケーブル、電源タップにおける接点などの抵抗を通過する事で大きな損失が発生し電圧降下や波形の歪が起きてしまう事が挙げられる

波形の「歪み(特にピークが潰れる現象)」の要因としては、家庭内や近隣で使用される電子機器のスイッチング電源(コンデンサインプット回路)がピーク付近で一気に電流を吸い込むことによる影響も大きい。

また、波形が歪むことは高周波ノイズを発生させることになり、オーディオにおける再生音にも悪影響を及ぼすと考えられる。

オーディオ用電源タップの写真
オーディオ用電源タップの写真

電源タップは、この「上流」から供給される電力を各機器へと分配する最終結節点であり、ここで発生する伝送ロスによる歪みや微細な振動、電磁妨害(EMI)の制御が、システム全体のS/N比を決定づけると考えられる。

筆者はオーディオ用とされる電源タップを調査し、購入する選定基準となるよう2024年から2026年にかけての最新の製品動向、および技術的仕様に基づき、比較的購入しやすい1~5万円台の価格帯における主要メーカーの設計思想と推奨製品を詳細に分析した。

国内メーカー徹底解剖。オヤイデ・KOJO・フルテック・クリプトン

オーディオ用電源タップの市場において、日本のメーカーは世界的に見ても極めて高い技術水準と独自の設計思想を保持している。それぞれのメーカーが導体材料、ノイズ対策、筐体構造という三つの柱に対して、異なる技術的アプローチを採用していることが分かった。

オヤイデ電気(OYAIDE):導体科学と信頼の伝統

オヤイデ電気は、秋葉原を拠点とするケーブルおよびコネクタの専門メーカーとして、素材の純度と構造のシンプルさを追求するアプローチで知られている。同社の製品設計の根幹にあるのは、自社開発の精密導体「102 SSC」である。これは、不純物を排したJIS C1011無酸素銅をベースに、天然ダイヤモンドのダイスを用いたピーリング加工を施すことで、表面の平滑性を極限まで高めた導体である 。

筆者は導体における表面の平滑性と音質の関係について注目している。歪んだ電源波形に含まれる高次高調波や、外来の電磁波ノイズ(MHz帯以上)を考慮すると、表面状態が伝送品質に及ぼす影響は無視できないと考えている。

実際にシミュレーションでも高周波損失が増大する事は確認できており、導体の表面状態と高周波損失を生じた導体がどのようにオーディオ帯域の音質に影響するかという因果関係については今後の実験課題にしたいと考えている。

オヤイデの主力製品である「OCB-1」シリーズは、発売以来30年以上のロングセラーであり、累計出荷数は膨大な数に上る。最新の「OCB-1 EXs II」などのモデルでは、筐体に高剛性のPBT-GF30(ガラスフィラー30%混入ポリエステル樹脂)を採用し、内部配線には「Black Mamba V2」を使用するなど、パーツ単位での純度を追求している。音質傾向としては、特定の帯域を強調することなく、音楽のエネルギー感と鮮度をストレートに伝える特性を持つとしている。

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光城精工(KOJO TECHNOLOGY):機械的アイソレーションの先駆者

青森県に拠点を置く光城精工は、電源浄化装置や精密測定器の製造で培った技術をオーディオに応用している。同社の設計思想において最も特徴的なのは、微細な振動が電気接点に及ぼす影響を排除する「M.I.S.(Mechanical Isolation System)」構造である 。これは、電源タップ内部のコンセント、配線、インレットを一つのサブシャシーにマウントし、それを外装ケースから物理的に浮かせることで、外部振動の伝達を遮断する技術である 。

筆者は以前振動をケーブルに与えた時に発生するマイクロフォニック音によるノイズに付いて実験(FFT解析)を行っている。特に低周波は壁や床を通じて振動が伝わりやすい。実験結果によるとケーブルを例えば100Hzの周波数で振動させると、本来発生するはずのない20~30Hzといった低周波数で不要なノイズを観測している。この現象はSNR(信号対ノイズ比)を悪化させ本来の音楽をマスクする事で音質への悪影響が発生すると考えられる。興味のある方は下記の記事を参考にされたい。

その時の実験データの抜粋である。ケーブルの材料や構造によって音質に影響があると考えられる一つの事例を提示した。

ケーブルを振動させたときのマイクロフォニック音
ケーブルを振動させたときのマイクロフォニック音。注目したいのは振動の基音である100HZに対し20~30HZといった低周波で振動なしに対し振動ありの方がマイクロフォニックノイズが増大する現象である。本来現れるはずのないノイズがケーブルを振動させることで発生する実験データとなっている。

「Crystal」シリーズに代表される同社の電源タップは、音質的には、背景のノイズフロアが低下し、音場の見通しがクリアになるという評価が一般的とされる。筆者の実験結果から推測される音質の影響とも合致していると言えるだろう。

フルテック(FURUTECH):先進素材技術と電磁波対策

フルテックは1988年、古河電工のPCOCC(一方向性単結晶銅)ケーブルを海外に販売・供給する会社として設立された。世界的なオーディオアクセサリーメーカーであり、その設計には高度な素材科学が導入されている。特に、静電気対策を施した特殊セラミック粉体とカーボン粉末を調合した「NCF(Nano Crystal Formula)」素材は、同社の近年の技術的ブレイクスルーとなっている 。

電源ボックス「e-TP60」や「e-TP66」などの内部には、特殊電磁波吸収材「GC-303」が配置されている 。これは、電流の経路に直接介在することなく、非接触で内部の電磁波ノイズを熱エネルギーに変換して減衰させる素材である。この方式は、電気的なインピーダンスを上昇させずにクリーンな電源供給を実現できるため、オーディオファイルから高い支持を得ている 。

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電源タップの内部分解写真。FURMAN製

筆者の考えうるポイントとしては、ノイズ対策が電流経路に介在しないという点が興味深い。一般的にオーディオ機器におけるノイズ対策は高周波用途のコンデンサやシールドといった部品が使用されるが、音質に与える影響は大きい。電気的経路と非接触となるノイズ対策はこういった悪影響が避けられる可能性があると考えられるだろう。

クリプトン(KRIPTON):ノイズフィルタリングの論理的アプローチ

クリプトンは、スピーカー設計で培った物理学的知見を電源環境の改善に適用している。同社の「PB-150」や「PB-222」などの電源ボックスは、内部に洗練されたノイズフィルター回路を搭載していることが最大の特徴である 。

リンク先の内部分解写真を確認したところ、ノイズ対策用と思われるコモンモードコイルが2個使用され電源ラインに重畳するノイズを遮蔽する。一般的にこのようなコモンモードコイルによる高周波ノイズ低減効果は20dB~程度(電圧比1/10~)となっていると考えられる。

オーディオ機器には、大電流を必要とするパワーアンプのようなアナログ機器と、微細なデジタル信号を扱うプレーヤーやPCのようなデジタル機器が混在している。クリプトンは、これらを物理的・電気的に分離する「2系統(または3系統)分離構造」を採用している 。デジタル機器から発生する高周波ノイズがアナログ機器へ回り込むのを防ぐこの設計は、現代のネットワークオーディオ環境において有効なソリューションと言えるだろう 。

筆者は以前、DACアンプ周りの電源ノイズ対策について記事にしているので興味のある方は参考にされたい。

1万円から5万円価格帯における製品仕様の比較

オーディオ用電源タップを選定する上で、口数、配線材、筐体素材、および価格のバランスを考慮することは不可欠である。以下の表は、主要モデルの技術仕様をまとめたものである。

1万円〜5万円前後の主要オーディオ電源タップ比較表

電源タップ主要メーカー仕様表

各セグメントにおけるオーディオ向け電源タップの選定と推奨根拠

本調査の結果に基づき、使用目的を考慮した製品をピックアップした。

1. スピーカーシステム・振動対策向け:KOJO Technology Crystal 3.1

2万円台半ばという、オーディオグレードとしては戦略的な価格設定でありながら、上位機種譲りの「M.I.S.構造」を搭載している点が最大の選定理由である 。

  • 推奨根拠: 3口というコンパクトな構成ながら、連結機能を活用することで後からタップを増設したり、仮想アースを直接接続したりできる。音質改善効果が見込めるとともに、システム拡張にも柔軟に対応できるため、将来的にも使い続けられるという点で投資対効果が高いと考えられる 。

2. トータル完成度:オヤイデ電気 OCB-1 EXs II

4万円を超える価格設定だが、高性能な電源ケーブル(Black Mamba V2)が最初から装着されており、電源プラグまで含めたトータルバランスに優れている 。

  • 推奨根拠: 102 SSC導体の採用が大きい。ケーブル選定に悩む必要がなく、完成された「オヤイデサウンド」を手に入れられる点は、多くのユーザーにとって大きなメリットであろう 。

また、エントリークラスのOCB-1シリーズも選択肢の一つであろう。

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3. アナログ/デジタル混載・ネットワークオーディオ向け:クリプトン PB-150

3万円台で買える唯一の「本格的ノイズフィルター搭載」モデルとして、現代の再生環境に最も合致している 。

  • 推奨根拠: PC、ルーター、NASといったノイズ源となる機器と、デリケートなアナログ機器を同一のタップに接続せざるを得ない環境において、2系統分離フィルターは音質向上(特にS/N比の改善)に効果があると考えられる。

4. コストパフォーマンス:FURMAN SS-6B

1万円以下の予算で、まずは壁コンセントやOAタップからの脱却を目指すユーザーにとって良い選択肢となるだろう 。

  • 推奨根拠: 堅牢なスチール筐体と、内蔵されたEMI/RFIフィルターにより、音楽制作用途にも耐えうる安定した電源供給を実現する。プロの現場で長年愛用されてきた信頼性は、オーディオ入門者にとっても強力なバックボーンとなる。

筆者宅でもFURMAN SS-6Bを長年使用しており実績がある。ブログでも記事にしているので興味のある方は参考にされたい。

結論

オーディオ用電源タップは、単に機器への給電を行うデバイスではなく、音楽信号の「純度」を守るための防波堤である。1万円から5万円の価格帯には、各メーカーが長年蓄積してきたノイズ対策と振動制御のノウハウが凝縮されている。

上流から変えることのコスパ

筆者は今後のシステムグレードアップとして、個別機器の電源ケーブルをすべて変える前に、まずはその大元となる上流のタップを固めるほうが、システム全体の底上げとしてコストパフォーマンスが高いのではないかという想定の元、調査を行った。

オヤイデ電気の導体への拘り、光城精工の振動からの機械的絶縁の論理、フルテックの先進素材の応用、そしてクリプトンの電気的フィルタリング。これらの技術はそれぞれ異なるアプローチを用いているが、最終的には「音楽の生命力を損なわないことを目指す」という一点に収束している。

ユーザーは、自身のシステムがスピーカーなどのアナログ中心であれば、オヤイデや光城精工のような素材と振動制御を重視したモデルを選び、デジタルやネットワーク再生が中心であれば、クリプトンのようなフィルター機能を備えたモデルを選ぶというように、オーディオライフに合わせた電源タップを選択するところにオーディオを楽しむ妙味があると言えそうだ。電源タップの導入は、将来に渡って使い続けられるというメリットがあり、安定した電源環境を構築する上での確実な投資となるであろう。

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By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。