USB DACのLINEOUTにノイズが重畳している写真USB DACのLINEOUTにノイズが重畳している写真

こんにちは、manotchです。前回の記事では、X(旧Twitter)上で実施した「USBケーブル・ブラインドAB当てクイズ」にて、応募者11名全員が全問正解(パーフェクト)するという驚きの結果をお伝えしました。

USBメタルケーブルで発生する「4kHz、6kHzの耳につく鋭いノイズ」と、USB光ファイバーケーブルによる「ノイズフロア5dB改善」という物理特性の差が、人間の耳で完璧に聴き分けられることが証明されたわけです。その時の記事がこちら!

USBケーブルABブラインドテストで11名全問正解。音質に差がある事を証明。

しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。 世の中には「高価な測定器で測ってもUSBケーブルによる静的な特性で差は出なかった。だから音質が変わるわけがない」と主張するオーディオサイトが存在します。

彼らの測定結果は嘘なのでしょうか? いいえ、データ自体は本物です。ではなぜ、人間の耳で聴き取れる音質差が、最高峰の測定器では「変化なし」になってしまうのか。今回はその裏に隠された測定第一主義者達が知らない「測定器の盲点」をロジカルに考察します。

1. 「変わらない派」が論拠にするリファレンス機の正体

USBケーブルで音質は変わらないと主張するサイトの多くは、オーディオ計測器の最高峰である「Audio Precision(オーディオプレシジョン:以下AP)」を使用したレビューサイトの静的な特性データを論拠にしています。

APはオーディオ業界標準の優れたリファレンス機であり、その測定精度に疑いの余地はありません。しかし、彼らの検証環境をよく調べてみると、ある「極端にクリーンな条件下」だけで評価が行われていることが分かります。

【一般的な「音質は変わらない」とする測定系】

デジタル信号(1kHzの正弦波)をUSBケーブルA・B経由でDACに送る。この際、使用される測定系に用いられる測定機器、オーディオ機器はリファレンスとするため厳重なノイズフィルター機能を持ち、電源も極めてローノイズなものが使われていると考えられます。そして、そこから出力されたアナログ信号をAPに入力して測定するのです。※あるレビューサイトにおいては価格が200万円以上という極めてローノイズな高性能ハイエンドDACをリファレンスとして測定しているようです。

この条件下では、USBケーブルをどちらに差し替えても、APの画面には全く同じ、極めてクリーンで美しい1kHzの正弦波が表示されます。正弦波以外のノイズは人間の耳で聴き取れるレベルを遥かに下回っているため、彼らは「測定値に変化はない。よってUSBケーブルによる音質差は存在しない」と結論付けるのです。

しかし、ここには実際のオーディオ再生環境とはかけ離れた「罠」が存在します。

2. APの仕様に隠された盲点:1MHzの壁

なぜAPでは、ケーブルによるノイズの影響が測定できないのでしょうか?その理由は、APの内部回路(仕様書)まで踏み込んで読み解く必要があります。

仕様書を確認してみましょう。すると、APのアナログ入力段には、「1MHz, 8pole(8次)」の非常に強力なローパスフィルター(LPF)が標準で組み込まれている事が分かりました。そもそもオーディオの周波数帯で使用する目的で作られた測定器なので高周波ノイズを測定する前提ではないのです。

このフィルターの役割は、オーディオ帯域(可聴帯域)の測定値を正確に導き出すために、測定の邪魔になる高周波ノイズをあらかじめ完全にカットすることです。しかし、USBケーブルの比較においては、この優れたノイズ遮断機能が裏目に出ます。

PCのUSBポートや内部回路から発生する高周波ノイズ(例えば、USBの動作周波数に由来する240MHzなどのノイズ)が、メタルケーブルを伝ってDACのアナログ出力にドロドロに重畳(ブレンド)していたとしましょう。

それがAPに入力された瞬間、どうなるか。

1MHz・8次の超強力なフィルターによって、240MHzのノイズは「-380dB」という天文学的なレベルまで徹底的に減衰されてしまいます。結果として、APの測定部には「高周波ノイズがすべて綺麗に取り去られた後の、美しい正弦波」しか届かないのです。

つまり、実際のオーディオ機器の出力がどれだけ高周波ノイズで汚れていてUSBケーブルによって大きな差が出ていようとも、測定器(AP)が優秀すぎて、内部でノイズを綺麗に消し去ってから計測してしまうのです。これでは、USBケーブル交換によるノイズの変化など、最初から測定できるはずがありません。

一般的に何も知らない方は最後に書かれている「USBケーブルで音質が変わらない」という結論だけを見て、ああそうなんだ。USBケーブルで音質は変わらないんだね。と理解して帰っていくわけです。

下記の記事はUSBケーブルにPC由来のノイズがどう出ているか、外来からどのようなノイズを受けているかという実験です。実際にオシロでDACのアナログ出力の残留ノイズを観測している様子ですが一目瞭然です。

実際にオシロでDACのアナログ出力の残留ノイズを観測している様子

3. 「聞こえないはずのノイズ」を人間の耳が感知する理由

「でも、1MHzを超えるような高周波ノイズなんてどのみち人間には聞こえないんだから、測定器でカットされても問題ないのでは?」と思うかもしれません。

ここに、「測定器の数値」と「人間の聴感」が乖離する最大の原因があります。

確かに240MHzのノイズそのものは人間の耳には聞こえません。しかし、その汚い高周波ノイズが実際のオーディオ機器(アンプなど)の内部に飛び込んできた時、回路を構成する半導体の不完全さによって、ノイズの性質がガラリと変わってしまうのです。本来は聴こえないはずの高周波が、回路内で「可聴帯域の歪み」へと姿を変え、結果として私たちの耳に「ノイジーな音場」「ざらついた違和感」あるいは「4kHz/6kHzの不自然な異音」といった形で届いてしまうと考えられます。

測定器(AP):1MHzのフィルターで高周波ノイズを完全にシャットアウト。「変化なし」と判断。

実際の再生系・人間の耳:APが標準で備えている強力な高周波フィルターがないため、高周波ノイズが可聴帯域に落とす影(音の濁りや違和感)を「音質の違い」としてダイレクトに聴きとる。

この辺は実際にオーディオ機器のノイズ対策をAPを使いながら検討すると、ノイズっぽい音として聴感に影響する事があったと記憶しているのですが、理論的には良く分かっていない領域でした。そこで今日は調べて深堀りしておこうと思います。

■技術的なメカニズム:「高周波検波」の正体

なぜそんなことが起きるのか。鍵を握るのは、アンプやDACに使われている半導体(トランジスタやFET)の物理特性です。

半導体内部では、「二乗特性(スクエア・ロー)」と呼ばれる物理現象が存在します。教科書的には「半導体は0.6V以上の電圧がないとONにならない(検波しない)」とされていますが、実はこれは大信号時の話。オーディオが扱うような微小な電圧の世界では、0.6V以下であっても半導体は完全な直線(リニア)では動かず、わずかに歪んだカーブを描いています。

この「曲がった特性」の場所に、外部から240MHzなどの高周波ノイズがほんの少しでも重畳(ブレンド)されると、半導体の非線形性によって、高周波ノイズ同士が内部で「掛け算(混変調)」を起こしてしまいます。

その結果、 USBデータのパケットの塊(8kHz周期のバーストなど)が、アンプの半導体によって見事に「検波(音声信号化)」されてしまい、「ジー、チリチリ」という可聴帯域内のノイズフロアの揺らぎや、再生音のアンビエンス(微小な空間の位相情報)のマスキングを引き起こすことになるのです。

「APでは高周波ノイズによる変化を測定できない」という物理的な仕様を踏まえると、皮肉なことに「測定器では差が出ないのに、人間の耳には音場のノイジーさや違和感が聴感の差として聴こえる」というオーディオ界のミステリーが、非常にロジカルに説明できてしまいます。

一部のサイトが主張する、「測定器の性能は人間の聴感を遥かに上回るため、測定器で分からない音質差など存在するわけがない」という話は、実は全くの真逆だった……という、なんとも皮肉な結末(笑い話)になるかもしれませんね。

RFイミュニティ測定(高周波電磁界耐性・IEC 62132規格準拠)

車載オーディオやスマートフォンの設計現場で行われている、国際規格に準じた本格的な測定方法です。携帯電話の電波(数GHz)がオーディオ回路に飛び込んで「ブブブ」と検波され聞こえる現象(TDMAノイズ)を測定するために制定されました。

「高周波ノイズがオーディオ回路に入り込むと、可聴帯域の歪みとして出現する」という現象は、最先端のインフラ設計の現場ではオカルトでも何でもなく、国際規格で厳格に定義された物理現象なのです。

だからこそ、これからのオーディオ機器の真の性能評価には、単なる実験室のようなクリーン環境での測定だけでなく、こうした高周波ノイズ(EMC・イミュニティ)の観点から「いかに実際のノイズ環境に合わせて測定するか」を見ていく必要があるのではないでしょうか。

4. 「変わらない」という体験もまた、もう一つの真実

ここまでUSBケーブルで音質が変わるメカニズムと高性能なオーディオ測定器(AP)の盲点を解説してきましたが、最後に触れておきたいことがあります。それは、「USBケーブルを交換しても音が変わらなかった」という体験もまた、否定できないもう一つの真実であるということです。

なぜなら、音の違いが体感できるかどうかは、個人の耳の良し悪しだけでなく、「使用しているオーディオシステムのノイズ量」に大きく依存するからです。

もし、あなたが使っているDACやアンプが、PCからの高周波ノイズを完璧に遮断する強力な内蔵フィルターを備えていたり、完全にアイソレーションされた極めてクリーンな外部電源を使用していたりした場合、メタルケーブルを使おうがPC由来のノイズは極めて小さくなり、可聴帯域で聴き分けられないほど小さくなる。 つまり、そのシステムは先述した「オーディオプレシジョン(AP)の理想環境」に近づくことになります。この場合、ケーブルを変えても音は「変化が分からないほど小さい」場合もあると考えられるのです。

総括:自分で聴いてどう聴こえたかが「真実」

改めて、今回の検証と考察から見えてきた結論を整理してみましょう。

  • 音が変わる場合:

    高周波ノイズが可聴帯域に悪影響を及ぼす環境があり、それを人間の耳は敏感に察知できる。既存の測定器(AP)の数値に出ないからといって、耳に聴こえる差を「オカルトや気のせい」と切り捨てるのは早計である。
  • 音に差が出ない場合:

    システム全体のノイズ対策が完璧であれば、USBケーブルによるノイズの聴感差は極めて小さくなる。「変わらない」と感じるのは、そのオーディオ機器本体(DACやアンプなど)の設計が優秀である証拠でもある。

オーディオの面白いところは、100人いれば100通りの再生環境(ノイズ環境)があり、それぞれに異なる正解が存在する点にあります。その観点からみると、オーディオレビューサイトや測定第一主義者の主張する、ケーブルで音質が変わらないと断言するのは一方的で誤解を生む表現であり、無理があるというものです。

我々は極めてノイズの少ない実験室に住んでいる訳でもありませんし、ノイズ対策が完ぺきな何百万もするようなハイエンド測定器やオーディオ機器などを通した音を誰もが聴いているわけではないのです。

「データに差が出ないから変わるわけがない」と頑なになる必要もなければ、「違いが分からないのは耳が悪いからだ」と思う必要もありません。大切なのは、他人のデータや誰かの主張ではなく、自分で聴いてどう聴こえたかだと思うのです。

ぜひご自身の耳で、オーディオの奥深さを楽しんでみてください。

今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。

今回の記事の元になったブラインドABテスト応募要項です

USBケーブルに加わるノイズ波形をオシロで確認する実験検証です。ノイズが乘るEMC理論は既知の物理現象です。

ブログランキングに参加しました。面白いと思ったらぽちっと応援してくださいね。

にほんブログ村 PC家電ブログ ピュアオーディオへ
にほんブログ村

By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。