オーディオケーブルの写真オーディオケーブルの写真

こんにちは、manotchです。

前回の記事では、「ケーブルによって音が変わる」という現象の正体を探るべく、ケーブルの「声」とも言える「マイクロフォニック音」に着目しました。

そして、ケーブルA(単線)、B(2芯撚線)、C(4芯スタッカード撚線)で、振動によって発生するマイクロフォニック音というノイズの周波数特性が「データとして可視化できるほど明確に違う」という結果を得ました。

[前回の比較画像]

ケーブルA,B,Cのマイクロフォニック音の周波数特性表したグラフ。それぞれ特徴のある周波数特性となっている

グラフの見方 横軸…周波数20Hz~20KHz,縦軸…電圧…1uV~10V 1目盛り20dB(10倍)

ざっと比較すると、音圧で10~40dB(電圧比10~100倍)くらいは違いますね。どの周波数でピークが出るのか傾向もはっきりとした違いが見られます。

その時の記事はこちら!

しかし、一つの大きな謎に突き当たりました。

この「差」は、本当に「振動(マイクロフォニック)」が原因か? もしかして、振動源(振動スピーカー)が発する「電磁誘導ノイズ」を、ケーブルのシールド性能の差で拾っているだけ(=地獄耳)ではないか?

今回は、この「振動」と「電磁誘導」を切り分ける実験を行い、この探求に結論を出したいと思います。


■疑問①:振動の「強さ」とノイズの「大きさ」の関係は?

まず、「振動が原因」という仮説を強固にするため、振動の強さを変えたらノイズはどうなるかを調べます。もし比例関係にあれば、強い相関があり振動が主原因である可能性が高まります。

[実験風景]

オーディオケーブルを振動を与えている実験の様子
オーディオケーブルを振動を与えている実験の様子

測定系のブロック図は以下の通りです。

[ブロック図]

ケーブルから発生するマイクロフォニック音の周波数特性を測定するブロック図

【実験】 振動スピーカーに印加する電圧(=振動の強さ)を徐々に上げながら、ケーブルから発生するマイクロフォニック音の電圧を記録しました。 入力する振動の周波数は100Hz, 1kHz, 5kHzの3パターンで試します。

【結果】(ケーブルBで測定)

[グラフ画像:振動スピーカー電圧vs出力マイクロフォニック音]

グラフ画像:振動スピーカー電圧vs出力マイクロフォニック音

グラフの見方

  • 【横軸】デジタルアンプの出力に振動スピーカーを接続したときの印加電圧[Vpp]
  • 【縦軸】マイクロフォニック音の信号レベル[uV]

グラフを見ると、非常に興味深いことが2つ分かりました。

  1. 綺麗な「比例関係」にある

    いずれの周波数でも、振動スピーカーの電圧が大きくなる(振動が強くなる)と、マイクロフォニック音の信号電圧も正比例して大きくなっています。これは、観測されたノイズが「振動」と強い相関関係にあることを示しています。
  2. 周波数によって「感度」が違う

    グラフの「傾き」に注目してください。100Hz(灰)や5kHz(橙)に比べ、1kHz(青)は傾きが急です。これは、このケーブルが「1kHzの振動」に対して特に敏感に反応する(=マイクロフォニック音を発生させやすい)ことを意味します。

たとえるなら…

ケーブル君は、揺さぶられる強さに比例して素直に「声」を大きくすることが分かりました。 さらに、周波数によって「くすぐったがり方(感度)」が違うようです。100Hzで揺さぶられるより、1kHzで揺さぶられる方がずっと「声」が出やすい、というケーブル君固有の「体質(キャラクター)」があるわけです。

ちなみに、グラフで5kHzの5Vのプロットが抜けていますが、これは実験室が「キーン!」という耐え難いほどの高周波音に包まれたため、耳の安全のために記録を断念したからです(笑)


■疑問②:「振動」と「電磁誘導」どちらが主犯か?

さて、いよいよ本丸です。「振動」と「電磁誘導」、どちらがノイズの「キャラクター」を作っているのでしょうか。

これを切り分けるため、以下の動画のような実験を行いました。

  1. ケーブルを振動スピーカーに接触させる(振動+電磁誘導)
  2. ケーブルを接触させず、距離を変える(電磁誘導? or 空中を伝わる音波による振動?)

【実験動画】 (ケーブルを振動スピーカーに付けたり離したりする動画)

ケーブルに振動スピーカーの振動板をあてた瞬間、高次のマイクロフォニック音が発生している

【分析】 この動画から決定的な違いが見えてきました。

1. 「接触」した瞬間に高次のマイクロフォニック音によるノイズが発生

動画で、ケーブルが振動スピーカーに触れた瞬間、FFT(周波数解析)のグラフに注目してください。入力は100Hzの信号ですが、その倍音(200Hz, 300Hz…)や、さらに高次の複雑なノイズが一斉に発生するのが分かります。 これが、私たちが探していたケーブル固有の「声色=キャラクター」の正体です。

2. 「非接触」では、基本波が中心

一方、ケーブルを触れずに距離を変えると、信号レベル(主に100Hzの基本波)もある程度ふらつきますが、接触時のような派手な倍音成分は発生しません。

この「非接触」時のふらつきが「電磁誘導」なのか、それともスピーカーから出た「音波」がケーブルを揺らしているのか、この実験系で完全に切り分けるのは困難でした。

【結論】 しかし、最も重要な事実は、ケーブルの「キャラクター」を決定づけるような複雑な高次のノイズ(倍音成分)は、「物理的な接触=振動」によって圧倒的な割合で多く発生している、ということです。

電磁誘導の影響もゼロではありませんが、あの動画で観測された「ピーキーな特性」や「複雑な声色」を生み出す主犯は、やはり「マイクロフォニック音(振動)」である可能性が極めて高い、と結論付けられます。


■電気部品は微細な振動をしている

これまでの実験で、ケーブルに外部から振動を与えると、固有の周波数特性を持ったマイクロフォニック音(キャラクター)を発生させることが分かりました。

オーディオ機器が振動する原因として、スピーカーから出る「音圧」を思い浮かべるでしょう。

しかし、原因はそれだけではありません。 皆さんも、電源トランスが「ジー」と唸ったり、コイルやコンデンサから「キーン」「ジージー」といった音が聴こえた経験はないでしょうか?

【コイル鳴きの動画】 デジタルアンプにスピーカーを繋がずに、抵抗負荷(ダミーロード)だけを繋いで音楽を鳴らした動画です。

スピーカーを繋いでいないのに、アンプ本体から音楽が聴こえませんか?

[怪談?デジタルアンプ本体から音が出る??]

デジタルアンプにダミー負荷(抵抗)をつないで音が鳴るようす。部品から音が鳴っている証拠

実はこれ、デジタルアンプ内部の電気部品(出力段のローパスフィルタ用コイルなど)に大きな電流が流れることで、部品そのものが振動し、音楽に合わせて「鳴って」いるのです。

X(旧Twitter)に投稿した際は「怪談?」というタイトルにしましたが、これはオカルトでも何でもなく、『部品自身が電流で振動して音が出る』という、れっきとした物理現象です。

この現象には、原因によってそれぞれ以下のような名前がついています。

  • 磁歪(じわい):電源トランスなどで、磁気によって鉄心(コア材)が伸縮変形する現象。
  • 摩擦電気効果(Triboelectric):ケーブルにおいて、摩擦電気は、電圧がなくても内部の摩擦だけで自ら電荷を生み出す現象。
  • ローレンツ力:コイルやケーブルにおいて、磁場の中を流れる電流に対して発生する力。
  • 逆圧電効果:セラミックコンデンサなどで、電圧を加えると素子が伸縮変形する現象。
ヘッドホンケーブルの写真

つまり、私たちが音楽を聴いている瞬間、オーディオ機器内部のあらゆる部品(ケーブル、コンデンサ、コイル…)は、流れる音楽信号そのものによって、常に微細に振動していると考えられるのです。

その振動をケーブルが受ければ、当然『音のキャラクター』として何らかの影響を受けることになるでしょう。このように考えると、スピーカーで音楽を聴いているとき以外でも(例えばヘッドホン使用時などでも)、ケーブルで音が変わることが合理的に説明可能です。


■総括

「オーディオのケーブルを替えたら、音が変わった」

この言葉の裏には、オカルトや「気のせい」では片付けられない、物理現象が隠されていました。

そして、このマイクロフォニック音は録音機やスピーカーを介して実際に聴くことが出来るのです。

結論: ケーブルを含むオーディオ部品は、①外部からの音圧②内部を流れる電流 によって物理的に振動します。 その際、部品の構造や材質に応じた固有の「周波数特性(キャラクター)」を持ったノイズ(マイクロフォニック音)を発生させます。

実験結果から、このマイクロフォニック音が元の音楽信号に加わることで、私たちが「高音がクリアになった」「低音が引き締まった」と感じる「音のキャラクター」の変化の一因となっている可能性は、非常に高いと言えるでしょう。

オーディオケーブルの写真
オーディオケーブルの写真

もちろん、これが「音の変化」の全てではありません。しかし、ケーブルの「構造」や「硬さ」といった物理的な違いが、測定可能な「周波数特性の特徴の差」として現れるという事実は、非常に興味深い結果であると言えます。

ケーブルの世界、やはり奥が深そうです。 最後までお読みいただきありがとうございました。

■まとめ記事です

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By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。