真空管ヘッドホンアンプをリリースしているメーカーでxDuoo エックスデュオという会社があります。今回レビューしたMT-602ですが結論から言うとしっかりした作りの良いヘッドホンアンプだと思います。音は馬力がありスピード感がある感じだと思いました。真空管ヘッドホンアンプは4台目になるのでここら辺で他のヘッドホンアンプと比較しながらレビューしていきたいと思います。(本稿はMT-602のレビュー纏めになります。後日談を入れて若干加筆修正しました。)

■ヘッドホンアンプの出力はどれくらい必要か?

これまで購入したヘッドホンアンプ出力があるオーディオ機器をリストにしてみました。これからヘッドホンアンプを購入しようとする方に参考になるかもしれません。ヘッドホンアンプを購入する方は恐らく、パソコンや携帯などのLINEOUTからヘッドホンやイヤホンで普段聴いていて、もう少し音を良くしたいなーという方だと思います。以前、私もそうだったんですがやっぱりちょっと音の鳴りっぷりが物足りないんですよね。音が元気よく、気持ちよく鳴るほうが音楽が楽しめますもんね。そこで、この一年間くらいはヘッドホンアンプのドライブ力に注目してヘッドホンアンプを購入してきました。どれもそれぞれ味があって面白いです。下記にリストを纏めました。はい、こちら!

大きく分けて①~④の据え置き型と⑤のような携帯型があるのですが、据え置き型は電源事情が良く電圧もDC12Vとか割と高く取れるので出力も大きく取れます。こうしてみると1000mWくらいがスタンダードのようです。これくらいあれば良さそうです。一方、携帯型は電源事情が厳しくてバッテリー直でアンプを動作させる場合がほとんどのようです。その為、DC3Vくらいで駆動するのでパワーが出ないわけです。ドングルタイプのDACですと100mWくらいがスタンダードのようです。音量的にはどうかというと⑤のFiiO KA3を携帯に接続してボリュームをMAXにするとヘッドホン(Beyeardinamic DT990PRO 250Ωの場合)がうるさいほど鳴るくらいの感覚です。ただ、もう少し余裕が欲しいかなぁ。その為、音量的には100mWくらいあれば最低限良さそうに思いました。据え置き型はその10倍くらいパワーが出るので音にも余裕が出てくるわけですね。所で、今回レビューしたXDUOO MT-602ですが・・・出力が実測26.8Vppで無負荷最大出力は10,900mW(10.9W)!おかしいなぁー測定間違えたかな。

やっぱり、出力電圧が高かった!10Wというと100mWの100倍くらいです。これは音に余裕がでるかも。しかし、こんなに出力要るのでしょうか?後で他の機種と比較しながら見て行きたいですね。

【注】10Wというのは無負荷の最大電圧から推定した32Ω負荷時の出力電力です。従って32Ω負荷時に10W出るかどうかは分かりません。仮に10W出たとしても連続で出力するのは厳しいように思います。そういう想定をした設計ではないでしょうから。

■Xduoo MT-602開梱の儀式

少し時間をさかのぼります。製品が届きましたので早速開梱してみましょう。ワクワク。ん?製品サイズの割に箱が結構大きいですね。

何と、真空管が差し込んだ完成品の状態で梱包されていました。他の製品は自分で差し込んでいましたのでちょっと驚き。よく考えると当たり前か。(苦笑)左側にある黒いスポンジは製品の上に被さっていたクッションで製品を上と下からスポンジでスッポリ覆って梱包されています。これはかなり厳重な梱包ですね。真空管とか壊れやすいのでこうなるかもしれませんが好感の持てる梱包です。

取扱説明書と保証書が付いています。

取説にある、ヘッドホンアンプを置く場所についての注意書きです。発熱があるので製品前後にスペースがないと熱がこもって製品寿命を短くしたりするリスクがありますがここまで丁寧に説明しているメーカーは少ないかもしれません。これも感心しました。

取説にあるスペックシートです。出力1300mW 32Ωは問題なく出ていそうです。周波数特性も3~20KHzまでは出ているのを確認しました。20KHz以降は信号レベルが減衰しましたので60KHzまで出ていることは確認できていません。これはこちらの環境(携帯アプリの信号源)の問題かもしれません。良い測定器が欲しいなー。ゲインは実測で17dB程度と問題なさそうです。歪等は測定できていませんが確認できた項目は概ねスペック通りではないかと思います。

仕様

電源:DC12V/1A
ゲイン:+15dB。
出力:1300mW(32ohm)。
周波数応答:10HZ~60KHz (+0.5dB)。
S/N:115dB。
適切なヘッドホンインピーダンス:16~600オーム。
THD+N:≤0.01% (1KHz & 32ohm)
サイズ:12 x 7.8 x 4cm。
重量:0.38kg

■音出しまでの手順は?

早速鳴らして見たいので、配線してみます。フロントパネルは下記の写真となっています。左側にパワースイッチ、ヘッドホン出力端子は6.35mm,3.5mmの接続端子となっています。右側にはaux inがあります。フロントパネルはシックなグレーでなかなかカッコイイです。ちょっとおしゃれですね。筐体はNCで加工したようで強度があり、思ったより重量感があります。

リアパネルはAUX INがありこちらにノートパソコンや携帯、DAC出力などの音源を接続します。AUX OUTがあるのでプリアンプとしても使用できるようです。右側は電源入力でDC12Vです。ACアダプターが付属しているので差し込んで使用します。

この製品は電源スイッチを入れてから暫くミューティングがかかっていて実測で15秒程度後に音が鳴りだしました。ミューティングはリレーで行っているようで音が入るとカチャっと音がします。プロテクターの意味もあるのでしょうか。リレーを省いてコストダウンする場合もありますが、XDUOOはお金をかけていますね。地味ですが配慮を感じます。ただそれでも電源オン時のポップ音は若干出ますけどね。

■音のファーストインプレッションは?

音の評価系は最近作成した下図になります。ヘッドホンアンプの所はFX-AUDIOさんのTUBE-02Jになっていますが、そこをXDUOO MT-602に変更した状態です。基本的にはFiiO K7からヘッドホンアンプを経由してヘッドホンで聴くというシンプルなものです。

課題曲は星街すいせいさん、結束バンド、宇多田ヒカル、オケなど偏った選曲となっています。(苦笑)まぁ、自分の聞きたい曲を聴くのが一番ですね。

音のファーストインプレッションですが、馬力があってスピード感が出る。です。低音もドスが聴いた感じで低い所からしっかり出てくる感じがあります。力強いですね。ボーカルはリアリティーがあり真空管のイメージだと柔らかくて艶やかみたいな印象があるかもしれませんが、こちらはベールが一枚はがれて前に出てくるような音の出方だと思いました。高音もシンバルやシンセサイザーなどアタック音に芯がある感じです。少し、高音は響きに華やかさがありキャラクターを感じます。ここは好き嫌いが分かれる感じです。良く言うと綺麗ですが、悪く言うとキンキンした感じです。

総じて全体的に真空管アンプというよりヘッドホンアンプとして力強さを求めた音作りをしたのかなと思いました。こちらはどのようにして実現したのか興味深いです。

さて、一部の皆さんのお待ちかね。分解写真のレビューです。電源がツヨツヨです。力入っていますねー。他の機種とも比較しながらXDUOOの音に関する考え方など考察していきたいと思います。

こちらは下面のパターン側から見た写真です。小出力~中出力のパワートランジスタが実装されているようです。この辺が出力のバッファー回路でしょうか。それにしても結構大型のトランジスタをおごっていますね。ある程度、出力電圧が高くてパワーが取れるのはこの辺に秘密がありそうです。

それから電圧増幅段を担うオペアンのようなICチップは実装されていないようです。そうするとこのヘッドホンアンプはフルディスクリートの真空管ヘッドホンアンプになりますね。この辺、他社と差別化出来ているようなのでもう少し宣伝しても良さそうなのになぁと思いました。フルディスクリートの方がトランジスタの回路や動作をいじれるので個性が出しやすいと思います。ただ、その代わりオペアンなどを変更して音の変化を楽しむようなことは出来なくなります。まぁ、一長一短ですけどね。

真空管ヘッドホンアンプ、Xduoo MT-602を分解した所ですが、電源関係のパーツが大きい(笑)ちょっと他の同じようなエントリークラスの真空管ヘッドホンアンプ、FX-AUDIO TUBE-02やNobsound NS-08Eと比べてみましょう。

■Xduoo MT-602の音への設計思想考察

こちらがXduoo MT-602です。電源用の電解コンデンサが何個か並んでいます。それから電源はトランス式のスイッチング電源のようです。本格的ですね。最近の真空管ヘッドホンアンプはスイッチング電源が多いようですがトランス式はある程度場所を取るので余り見かけないです。コンデンサで電圧を可変するような他の方式の電源より電源のレギュレーションが取りやすいのでパワーは出しやすいでしょうね。見るからに電源重視のようです。電源がしっかりしていると音の基本的な出方がしっかりすると思います。

Xduoo MT-602を裏面から見た写真です。

こちらは小~中出力のパワートランジスタが4個と小信号のトランジスタが並んでいるようです。LRチャンネルでダーリントン接続による電流増幅(バッファーアンプ)を形成しているようです。パワートランジスタはこのクラスではかなり大きい感じに思います。この辺もパワー重視のようです。

ヘッドホン出力電力の各社の競争のせいか出力電力が高いヘッドホンアンプがありますが、私は自分のイヤホンやヘッドホンにあったある程度適正な出力電力があればいいのではないかと思います。車に例えると分かりやすいと思いますが、馬力は高い方が良いと思いますが、それじゃー1000馬力の車がいいのかなぁ?というイメージです。

そうそう、オペアンプのようなものは見当たりませんのでフルディスクリートのアンプですね。良くも悪くも個性的です。そしてパターン周りを見ると割と好みの配線です。そうそう、そこはこう配線するよねーと同感できる部分が所々あります。あれ?と思う部分もありますがスペース的に理想的に配置できなかったのかもしれません。

後は最近はスイッチング電源のノイズでずいぶんと音が変わることが分かりましたのでその辺の対策はどうなのかなぁと思いました。贅沢を言うとキリがないですが・・・。しかしながら総じてしっかりした作りのように思いました。

こちらの写真は電源トランスの実装されている基板です。場所的に一枚基板に入らなそうですが基板を二枚にしても入れたかったんでしょうね。電源重視で回路的にはオペアンプを使用していない分シンプルで音もダイレクトな感じになるかなぁと思いました。

下の写真は側面の蓋をネジを外した所です。実は蓋を外すと少し音が開放的になり、少し音の硬さが柔らかくなることに気が付きました。こちらの方が音的には好みです。両サイドとも蓋はネジを取ると外すことが出来ます。しかし、埃が入ったりするので一長一短です。良く、ふたを開けて聴いた方が音が開放的になる経験をしましたので、手持ちのオーディオ機器で蓋を外して音が変わるか聴いて見るのも面白いと思います。

MT-602の蓋を開けたところです。写真の4か所のネジを外すと開きます。分解するときは外す必要もありません。このサイドのパネルは単なる飾りですね。実際にはリアパネル側後方に基板が引き出せるようになっています。これはデザインの良さを実現するための構造だと思います。

■FX-AUDIO TUBE-02JやNobsound NS08-Eと比較してみる

そして下記の写真は他メーカーのエントリークラスの真空管ヘッドホンアンプ、FX-AUDIO TUBE-02JやNobsound NS08-Eです。XDUOOのMT-602は写っていませんが真空管が6J1といった同じサイズですのでそれで比較すると大体の大きさがイメージできると思います。MT-602の電解コンデンサは真空管のソケットと同じくらいですのでそれをみると大分MT-602の電源ブロックのサイズ感が分かると思います。

FX-AUDIO TUBE-02JとNobsound NS08-Eのレビューはそれぞれ以前していますので興味のある方はこちらをご覧くださいね。

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■Sennheiser HD660SとXDUOO MT-602を組み合わせて聴いて見る

再生系のリファレンスヘッドホンはBeiyerdynamic DT990PROなんですがこれを使っている理由は割と音の変化が分かりやすいためです。今回のヘッドホンアンプはパワーが出るようなので手持ちでは鳴らしにくい部類のヘッドホンであるSenheiser HD660Sで聴いて見ることにしました。

DT990PROは高音がきついときはきついまま音が出てくるのでモニター用途には良いのですがそういう時は聞き疲れしやすいです。Senheiser HD660Sはもう少し音楽を楽しめる方向に振ったリスニング向けのヘッドホンなので果たしてどうなんでしょう。

結論から言うと音的にはこちらの組み合わせの方が正解だと思いました。XDUOO MT-602は鳴りっぷりがいいですね。HD660Sの充実した中低音がより厚みを増してパワー感があります。高音のキャラクターも適度なスパイスとなってメリハリが出てきます。HD660Sはどんな音楽でも懐の広くてある程度のレベルで鳴ってしまう良さがあると思います。他の手持ちのヘッドホンというとこれまたSennheiser HD555なんですがこちらは聴いていて音に心地よさがあり楽しいです。それぞれの良さが引き出される感じがしました。

なるほど、ドライブ能力が高いアンプというのはアンプの個性が出るというより繋いだヘッドホンの個性をより引き出せるというイメージなんだと理解しました。これは勉強になりました。

■まとめ

分かりやすいようにエントリークラスの真空管ヘッドホンアンプ3モデルを選んで主要スペックを並べて比較してみました。今見てみたらNE-08Eは球が6J9に変更になっていますね。

■真空管ヘッドホンアンプの魅力について

やっぱり音色でしょうか。それぞれのモデルに味があって個性的です。それと外観ですが真空管の見た目の面白さでしょうね。レトロと言われるとそうかもしれませんが、逆に今の時代だと新鮮な感じがあります。レコードプレーヤーも流行っているようですし、機会があったら真空管ヘッドホンアンプとレコードプレーヤーなど組み合わせて聴いて見たいですね。

項目XDUOO MT-602FX-AUDIO TUBE-02JNobsound NE-08E
サイズ15.6 x 14.1 x 13.11 cm9.8 x 9.9 x 3.3 cm15 x 12 x 8.8 cm
重量380 g275g185g
電源DC12V/1ADC12V/2ADC 6V /2A
出力電力1300mW 32Ω記載なし1100mW (32 ohm)
最大出力電圧24Vpp(実測)12.7Vpp(実測)5.7Vpp(実測)
周波数特性10~60KHz(カタログ)3~≧21KHz(実測)20-30KHz(カタログ)
対応インピーダンス16~600Ω16~300Ω18-600Ω
増幅率15dB0dB・-10dB 2段階記載なし
ゲイン切り替え無し(固定)あり(2段階)無し(固定)
歪率≦0.8% 1KHz記載なし0.005%
SN比115dB記載なし110dB以上
真空管6J1 初段6K4 初段6J3 初段
出力段パワートランジスタオペアンプ+小信号FETオペアンプ
内部電源スイッチング電源スイッチング電源スイッチング電源
外部電源ACアダプター付属ACアダプター別売ACアダプター付属
入力端子2系統 RCA,3.5mm2系統 RCA,3.5mm1系統 3.5mm
出力端子2系統 6.3mm,3.5mm1系統 6.3mm1系統 3.5mm
良い点低音がパワフルで
スピード感がある
音離れが良い
音に艶がある
中低音にパンチがある
悪い点音にメリハリがあるため
若干聴き疲れする
音をよくするには
付属の6K4を6J1に
交換する必要あり
高音が出ない
どんな人に
お勧めできるか
鳴らしにくいヘッドホン
を持っている方向け
ヘッドホンマニア向け
真空管ヘッドホンアンプ
らしさを求める方
ちょっとマニア向け
とにかく安価に
沼入門したい
これからのマニア向け
価格¥10,280¥7,820¥6,280

■スペック比較について

XDUOO MT-602とFX-AUDIO TUBE-02Jはスペックと実力と見比べて概ね良さそうに思いました。Nobsoundは出力レベルは実測から推定するとそこまで出そうには思えませんでした。デジタルアンプの時もそうでしたがちょっとスペックを盛っているかもしれません。ただ、実際に聴いて見た感じはそれほど出力に不足感は無いんですが。

■サイズ感の比較について

どのモデルも割とコンパクトなので置き場所を取らないと思います。NE-08は小さいので寝室のベットの横に置いて聴いて見たいですね。しかし、コンパクトさを追い求めるなら普通に半導体のヘッドホンアンプを購入した方が良いと思います。真空管は高さが少しありますからね。

■ノイズの比較について

XDUOO MT-602とFX-AUDIO TUBE-02Jは殆どノイズは聞こえないですね。優秀だと思います。Nobsound NE-08Eはボリュームの位置で若干ノイズを拾うときがありました。(しかしLEDのリードをカットしたら出なくなりました。ここでノイズを拾っているのかなぁ)

【後日談】

真空管ヘッドホンアンプでも1000mWを超えるような出力ですとスピーカーも鳴らせるんじゃないかと思って鳴らして見たら結構鳴りますね。KEF IQ30がちょっとうるさいほどになります。真空管ヘッドホンアンプの良いところはノイズが小さいことですね。スピーカーに耳を近づけてもノイズが全く聞こえませんでした。静かな環境で聴くにはいいかもしれません。

結構良い音出ます。真空管ヘッドホンアンプとKEF IQ30と相性がいいのかなぁー。特に小音量の時の細やかな音がいい感じです。

■音的な傾向の比較について

一覧に簡単なインプレッションを書きましたが比較的安価なモデルなのでどれか購入して聴いて見るのが一番かなと思います。

■さらなるアップグレードには?

外部電源のACアダプター(DC12V~6V)はスイッチング電源で結構ノイズが出ているようです。別記事のオーディオの電源を強化しよう、で電源のノイズカットが音質向上に効果があったお話をしました。更に音を良くしたい場合は低ノイズなACアダプターを使用したり、電源タップなどを見直すなどすると音が聞き取りやすくなったり、長時間聴いても聴き疲れしない、など音にいい影響が期待できると思います。下記はオーディオの電源を強化してみようpart1~part8という記事の総集編です。興味のある方は見て下さいね。

今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。

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By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。