2026.9.11 noteより転載
こんにちは、manotchです。
前回の記事で、デジタル伝送における「ビットパーフェクト=音が変わらない」という前提が、GND(グラウンド)を伝わるノイズの観点からみると必ずしも正しくないことを実測データと音声でお伝えしました。
デジタルオーディオと言えどもノイズの影響で音が変わるのです。試しにUSBケーブルにノイズ源(電動歯ブラシ)を近づけたらDACのアナログ出力がどうなるか?以前検証した動画です。
電動歯ブラシを近づけるとノイズが増大します。USBケーブルが外来ノイズを拾っている様子がはっきり分かりますね。
その時の実験をブログで記事にしています。この記事はおかげさまでXやブログ、Google Newsなどで多くの反響を頂きました。
今回は前回の記事から予告通り、DACをエントリークラスのドングルDACから、メジャーなオーディオブランドの据え置き機へと変更し、USBケーブルのアイソレーション性能(ノイズの絶縁性能)による音質差をさらに深掘りして実測検証していきます。
アイソレーション性能って難しく聴こえるかもしれませんが、ノイズをどれだけ受けにくくするかの指標です。
分かりやすい例としては、USBケーブルに付いている筒状のアレ(フェライトコア)です。
アレはノイズ対策であり、アイソレーション性能を上げるための部品なのです。
■ 据え置きDACでもUSBケーブルで音に差が出る
今回の検証には、オーディオファンにも馴染み深い以下の2つのブランドのDACを使用しました。
S.M.S.L DS100(据え置き型DAC/アンプ)
FIIO K9 AKM(据え置き型DAC/アンプ)
まずは結論から。どちらのDACにおいても、前回のバッファロー製ドングルDACの時と同じ現象(USBケーブルの絶縁性能による残留ノイズの有意差)が確認できました。
USBケーブルの絶縁性能でどのようにDACのアナログ出力の音(残留ノイズ)が変わるか見ていきましょう。測定系は前記事と同じ下記の状態です。
あえて大きくノイズの影響を受けやすくした接続系を用いる事で、音に差が出るか否かを分かりやすく解析できるようにします。
この手法、実はシミュレーションの世界では良く用いている手法です。様々な条件(ノイズの強度、絶縁性能、など各種パラメーター)を大きく振る事で、音に差が出るか出ないのか影響を明確にします。
その上で残留ノイズがどのような傾向で変化するか解析し、それに対する音質改善をどのようにアプローチしたらよいかを今後のノウハウとして蓄積できるようにします。
■ S.M.S.L DS100 高特性が売りのスタンダード機の結果
まずはオーディオファンならよくご存じのメーカーS.M.S.L社のDAC DS100からです。
今回もビットパーフェクト状態で音(残留ノイズ)の差を比較しています。グラフは2.5kHzの正弦波信号を出力したまま、他の周波数帯域でどのようなノイズが可聴帯域に聞こえるかをFFT解析でグラフにしたものです。
右図はUSBケーブルに絶縁(アイソレーション)がない直結状態です。
グラフを見ると4-8kHz付近に何本も高域ノイズのピークが立っています。実際に高域の「チィー」という耳障りなノイズや、低域の「ブーン」というフロアノイズがモニタースピーカーから聞こえます。
左図は絶縁有りの状態です。こちらは右図のようなピークは殆ど見受けられません。(少し60Hz付近にハムがありますね)このことからS.M.S.L社のDS100はUSBケーブルの絶縁性能が高ければ非常に良い静特性を持つDACという事が分かりました。
今回の結果からも、デジタルデータの0と1の欠落(ビット落ち)が全く起きていないにもかかわらず、PC側からUSBケーブルのGNDを伝わってくる高周波ノイズやハムノイズの影響が音に現れる事が実証されました。
■ FIIO K9 AKMで見えた「ハードウェア設計」の入念さ
しかし、今回の実験では非常に興味深いデータも得られました。 様々なDACをテストする中で、FIIO K9 AKMは「USBケーブルの絶縁が無い状態」での残留ノイズが、他のDACと比較して低いことが判明したのです。
これには思い当たる節があります。 以前、K9 AKMの実機を分解して基板を確認した際、AC(交流電源)側に「コモンモードノイズフィルタ」がしっかりと実装されていました。また、各回路が独立した低ノイズな定電圧回路(LDO)が実装されており、筐体の半分くらいの面積を占めていました。
メーカー側も外部からの侵入ノイズがオーディオ回路に悪影響を及ぼすことを十分に熟知しており、実機内に各種のノイズ対策を施しているのでしょう。このハードウェアレベルでの入念な電源・ノイズ設計が、ノイズフロアの低減としてしっかりと測定結果に出たのだと思います。
以下が今回の測定グラフになります。
【左図】絶縁有り(アイソレータ挿入時)
綺麗に2.5kHzの正弦波のピークだけが立っており、それ以外のノイズフロアは非常に低く抑えられています。ハードウェアのノイズ対策とケーブルの絶縁が相まって、極めて優秀な静特性を示しています。
【右図】絶縁無し(直結状態)
波形伝送に一切のビット落ちがない(デジタルデータとしては完璧な)状態にもかかわらず、低域のブーンというハムノイズと、高域のノイズピークが大きく増大している様子がグラフから読み取れます。
注目すべきは、K9 AKMのように本体側で入念な電源ノイズ対策が施された据え置き機であってもなお、USBケーブルの絶縁性能の差が、残留ノイズの有意差としてハッキリと測定限界に現れるという事実です。
ところで、世の中にはUSBケーブルによる音の有意差は無いとする、オーディオレビューサイトがあります。
レビューサイトによるとドングルDACのようなVBUSラインから電源供給されるDACではまれにUSBケーブルによって残留ノイズに差が出ると言っているのです。
他にも、もし音が変わるとすればUSBケーブルの断線といった物理的な不具合の時だけだそうです。 しかし、今回の実験結果をご覧ください。K9 AKMのような入念なノイズ対策を施した据え置き機で、かつUSBケーブルが正常に動作(ビットパーフェクト伝送)している状態であっても、アナログ段の残留ノイズには明確な差が出ることが実証されました。
「デジタルデータが同じなら音は変わらない」と主張するレビューサイトは、デジタルの論理層だけを見て、その下で発生する高周波コモンモードノイズや、「物理層におけるアナログ波形の振る舞い」というハードウェアの現実を無視した限定的な検証しか行っていなかったことが浮き彫りになったと言えます。
■ ここまでの総括
今回の実験結果から、下記①②を3モデルで実証しました。
「USBケーブルで音が変わる」という事実を、実測データを積み上げることでより強固な論拠としていきます。
①デジタル伝送における「ビットパーフェクト=音が変わらない」という前提が、GND(グラウンド)を伝わるノイズの観点からみると必ずしも正しくないこと。
②USBケーブルの絶縁性能によって残留ノイズに有意差が出る事。
次回は、この測定系において絶縁性能をボリューム(可変抵抗)を用いて可変する事で、USBケーブルがノイズを拾うアンテナのようにふるまい、理論通りに残留ノイズが増減する事を確認します。
今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。
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