電力会社で音が変わる?科学的に考察。電力会社で音が変わる?科学的に考察。

ネット掲示板で長年、オーディオマニアを揶揄する目的で使われてきた5ch伝説のテンプレ「電力会社コピペ」。東京電力はモッサリ、関西電力は高域のヌケが良い……などと語られ、「ピュアオーディオ界最大のオカルトネタ」として長年笑いの種にされてきた。

ピュアオーディオ界最大のオカルトネタ【出典 5ch】
ピュアオーディオ界最大のオカルトネタ【出典 5ch】

しかし、筆者がオーディオアンプの電源回路を電気工学的に突き詰めていったところ、驚くべき真実にたどり着いた。
このコピペ、完全に間違っているとは言い切れない。

結論:東京のオーディオマニアは今すぐ「富士川の西」へ引っ越すべし

さて、日本には、世界でも珍しい「電源周波数の東西分断(50Hz / 60Hz)」が存在する。

日本の家庭に届く電気は、東日本では主に50Hz、西日本では主に60Hzという異なる周波数で供給されている。その境界は静岡県の富士川である。つまり、富士川を境界として東京は50Hz、大阪や名古屋は60Hzなのだ。実はこの周波数の違いこそが、アナログアンプの最大出力と歪み特性を左右する要因の一つである。

結論から言おう。

リニア電源(トランス)を積んだアナログアンプにおいては、「60Hz(西日本)」の方が物理的・回路特性的に圧倒的有利になる。東日本から西日本へ引っ越すだけで、アンプの最大出力は理論的に「約3%(102〜104%)」も向上し、最大音量時の歪みも減少する。

これは理論上の話だけでなく、筆者が過去に実測した際も同様の結果が出ている(測定の詳細は記事末尾に記載)。

ハイエンドオーディオの世界では「低音の制動力が良くなる」と言われれば、数十万円の「電源タップ」や「マイ電柱」への投資が正当化される。

しかし物理法則は残酷だ。あなたが東日本(50Hz)に住んでいる限り、どんなに高価な機材を買っても、そのアンプの限界性能を引き出すことは物理的に不可能だ。

真のオーディオマニアが最後に買うべき究極のアクセサリー。それは電源タップでもマイ電柱でもない、「西日本の不動産」である。

究極のオーディオアクセサリー「西日本の不動産」
究極のオーディオアクセサリー「西日本の不動産」

もしあなたが今、東京でオーディオを楽しんでいるなら、今すぐリスニングルームを売り払い、周波数の境界線である静岡県の富士川を越えよう。中部電力の強力なインフラと60Hzの恩恵を同時に享受できる「愛知県」や「静岡県西部」こそが、真のピュアオーディオの聖地なのだ。

科学的見地に基づく「電力会社別・音質分類」の再評価

この「西日本=60Hz最強だぜ」という科学的事実を元に、あのコピペを分類し再評価した。すると驚くべきことに理にかなっていることがわかった。

  • 【東日本ブロック:50Hz管轄】東京電力・東北電力・北海道電力など
    最大出力が数%絞られ、ピーク時の電源の余裕が減るため歪率もわずかに悪化する。コピペで東京電力が「モッサリ遅い」その他電力も「低域薄い」と評されたのは、限界での低域の瞬発力低下を感じ取っていたからと推定する。
  • 【西日本ブロック:60Hz管轄】関西電力・中国電力・四国電力など
    アンプの最大出力が約3%(103%へ)向上し、大音量時の歪みが抑えられる。関西電力が「高域のヌケが良い」と評されたのは、電源に数%の余裕が生まれ、アンプ本来の高いダイナミックレンジを発揮できた結果と説明できる。

先人たちの耳は、あながち狂っていなかった。「電力会社で音が変わる」。それは決してオカルトではなく、物理学だったのである。

なお、最大出力が数%向上することと、音が良く聞こえることは実際には別問題であり個人差があるだろう。引っ越しは自己責任でお願いしたい。

前回の記事は大分突っ込まれましたので、今回の記事は・・・もっと突っ込んでヨシ!
前回の記事は大分突っ込まれましたので、今回の記事は・・・もっと突っ込んでヨシ!

【技術補足】なぜ60Hzだと出力が「103%」になるのか?

ここからは、定電圧源を用いた実測と、電気回路の物理法則に基づく計算例である。

交流を直流に変換するアナログアンプにおいて、なぜ60Hzの方が有利になるのか。理由は主に充電のサイクルの違いによるものだ。

リップル電圧の減少(充電サイクルの違い)

交流をブリッジ整流して直流にする際、コンデンサには周期的に電気がチャージされる。

  • 50Hz環境: 1秒間に100回(100Hz)チャージ
  • 60Hz環境: 1秒間に120回(120Hz)チャージ

コンデンサからの放電による電圧降下(リップル電圧)は、充電サイクルが長いほど大きくなる。つまり、チャージ頻度が高い60Hz環境では、50Hz環境に比べてリップル電圧が約16.7%(6分の1)も小さくなる。

このグラフは理想化した模式図である。
このグラフは理想化した模式図である。

最大出力の計算例

アンプがクリッピングせずに(歪みなく)出せる最大出力は、リップル電圧が最も落ち込んだ「谷間(トラフ)の電圧」に依存する。

仮に、フルパワー時のピーク電圧が100V、50Hz環境でのリップルが「10V(10%降下)」のアンプで計算してみよう。

  • 【50Hz】 トラフ電圧 = 100V – 10V = 90V
  • 【60Hz】 トラフ電圧 = 100V – 8.33V = 91.67V

アンプの出力電力(W)は「電圧の2乗」に比例するため、それぞれの電力ポテンシャルは以下のようになる。

  • 50Hz時のポテンシャル ∝ 90^2 = 8100
  • 60Hz時のポテンシャル ∝ 91.67^2 = 8403

これを比較すると(8403 ÷ 8100)、50Hz環境を100%とした場合、60Hz環境では「約103.7%」の最大出力が出せる計算になる。

注)50Hzと60Hzによる最大出力の差が現れるのは、アンプが限界に近いパワーを出した時(クリッピング付近)である。通常の音量で聴いている分には、音質への影響はほとんどないと考えられる。

※経験談

筆者は過去に、一般的な電源トランス+ブリッジ整流+平滑コンデンサで構成された非安定化電源のアナログアンプを用いて、50Hzと60Hzの最大出力を比較した経験がある。

測定にはAudio Precision(AP)のオーディオアナライザを使用し、交流電源の周波数を切り替えながら、同一のTHD+N(全高調波歪率+ノイズ)に達する出力を比較したと記憶している。

その際、60Hz側では50Hz側より数%程度大きな最大出力が得られた。

最大出力電力が西日本と東日本で差が出る理由をグラフで解説
最大出力電力が西日本と東日本で差が出る理由をグラフで解説

当時の測定記録が手元にないため数値の再確認はできないが、今回の回路理論による試算とも概ね整合している。

つまり、少なくともこの種の非安定化電源を採用したアンプでは、電源周波数の違いによって最大出力が変化することは、単なるオーディオ的な思い込みではなく、電気回路の動作から説明できる現象なのである。

【おまけ】電力会社コピペを統計解析

さて、ここまで50Hzと60Hzによるアンプの最大出力の違いを電気工学的に解説してきた。

では、あの伝説の「電力会社コピペ」の評価は、50Hzと60Hzの地域差と一致しているのだろうか?

最後にコピペに登場する10電力会社の評価を点数化し、面白半分に統計解析を行った。

評価はA+=4.3点、A=4.0点、A−=3.7点、B+=3.3点、B=3.0点、B−=2.7点、C=2.0点として計算した。

その結果は…

電力会社コピペを統計解析
電力会社コピペを統計解析

50Hz地域:平均3.00点(3社)
60Hz地域:平均3.47点(7社)

50Hzを0、60Hzを1として相関係数を計算すると、r=+0.26

結果:60Hz地域の方が平均評価点は約0.47点高く、弱い正の相関が見られた。

あの伝説のコピペを統計解析してみたところ、なんと60Hz側が優勢という結果になった。電気工学的な検討結果とも方向性が一致するというのは、面白い偶然と言えるだろう。

5chコピペ恐るべし。

やはり、オーディオマニアが最後に買うべきものは「西日本の不動産」なのかもしれない(笑)。

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2026.10.24 筆者のnote記事より転載

By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。