音光堂 オヤイデ製電源ケーブルの写真音光堂 オヤイデ製電源ケーブルの写真

こんにちは、manotchです。オーディオの音質を向上させるため、数万円もする高品質な電源タップや、極太のオーディオ用電源ケーブルへの投資を検討している方は多いのではないでしょうか。たしかに、電源環境はオーディオ機器のパフォーマンスを左右する重要な要素です。

音光堂 オヤイデ PC-23 軟質OFC電源ケーブル (ME2591-4781) 2m
音光堂 オヤイデ PC-23 軟質OFC電源ケーブル (ME2591-4781) 2m

でもちょっと待ってください。

それらの高品質なアクセサリーを繋ぐ自宅の「壁のコンセント(そして分電盤までの屋内配線抵抗)」という大元の基幹インフラの実力を、あなたはご存知でしょうか?

立派な家を建てるには、まず強固な地盤が必要です。オーディオも同じで、壁の中の配線がどれだけの抵抗(インピーダンス)を持っているか解明することで、より効果的な電源環境への投資が検討できるのではないでしょうか。基本的には配線抵抗が小さいほど電圧のドロップが小さくなるので電流供給能力が高くなり、音質的にも優れたインフラになると言えそうです。

「家の配線の抵抗を測るなんて、何十万円もするプロ用の測定器が必要なのでは?」と思われるかもしれませんが、ご安心ください。たった3,799円で買える「テスター」と、どこの家庭にもある「ドライヤー」さえあれば、中学校で習う「オームの法則」を使って、数ミリ~数十ミリオーム(mΩ)といった高精度で壁内の電源インピーダンスをデータで丸裸にすることができるのです。

そこで、「電源で音が変わる」というオカルトになりがちなテーマをシンプルな物理法則と実測値の差で解き明かし、あなたの家の電源インフラの実力を診断する第一歩となるノウハウをご紹介したいと思います。

オーディオ用電源タップKOJO CRYSTAL3.1
オーディオ用電源タップKOJO CRYSTAL3.1

1. 準備するものは2つだけ。3,799円のテスターとドライヤー。

自宅の電源インフラの実力を計測するために用意するものは、以下の2つだけです。

  • デジタルマルチメーター(テスター)

    交流電圧(ACV)が測れるものであれば、Amazonなどで3,799円程度で買える一般的なデジタルテスターで十分です。今回の測定に使用したテスターは下記になります。安価ですが波形が歪んだAC電源電圧でも正確に測定できるという「真の実効値」機能が付いたテスターです。※TRUE-RMS MULTIMETERって書いてあるでしょ。1台あると便利だと思います。
AstroAI DM6000AR AC/DC 抵抗、電流測定機能など一通り網羅した人気モデル。安価だが、歪んだ正弦波でも測定できる真の実効値計測機能も備えている。
AstroAI DM6000AR AC/DC 抵抗、電流測定機能など一通り網羅した人気モデル。安価だが、歪んだ正弦波でも測定できる真の実効値計測機能も備えている。
  • 1200Wクラスの「ヘアドライヤー」

    なぜドライヤーを使うのか? それは、大電流(約12A)を安定して消費してくれる、極めて優秀な「ダミーロード(負荷)」として機能するからです。大電流になるほど電圧の降下が大きくなり、精度よく屋内配線抵抗(電源インピーダンス)が実測しやすくなるのです。
電源タップにテスター棒を差し込んだ写真。同じコンセントにドライヤーも接続する。

2. オーディオ=オカルトを否定する物理法則「電圧降下法」

プロの電気工事士は「ループインピーダンステスター」という高価な専用機器を使って配線の抵抗を測りますが、その原理は非常にシンプル。無負荷時の電圧と、負荷をかけた時の電圧の「差(電圧降下)」から、オームの法則(V = I × R)を用いて壁内の見えない抵抗値を逆算します。これを電圧降下法と呼びます。電源で音質が変わるのはオカルトでも何でもなく、その理由は電源タップやケーブルの抵抗値の差として実測できる物理法則なのです。(他にもノイズや振動による音質への影響もあるのですが、今回は抵抗値という事例を記事に取り上げました)

そこで、自宅に有った1200Wのドライヤーを使用します。日本の電圧(100V)で1200Wを出力するドライヤーの内部抵抗(R)は、以下の計算で求められます。

  • 100V × 100V ÷ 1200W = 約8.33Ω

この「約8.33Ω」という純抵抗を利用して、自宅のコンセントに潜む「見えない配線インピーダンス」をあぶり出してみましょう。

⚠️【重要】実験を行う際の安全上の注意(免責事項) 家庭用コンセント(100V)の測定は、一歩間違えると感電やショート、火災の原因となる大変危険な行為です。実践する際は以下のルールを必ず守り、すべて自己責任で行ってください。「※テスター棒をコンセントに差し込む際は、金属の先端部分には絶対に触れず、絶縁されたグリップ部分をしっかり持って、まっすぐ確実に差し込んでください。」

・必ず「交流電圧(ACV または V〜)」モードで測定してください。 誤って「電流(A)」モードのままコンセントに挿さないでください。また、コンセントに挿している最中に、赤と黒のプローブの先端同士を接触させないでください。テスターがショートして火花が散り、ご自宅のブレーカーが落ちます。


3. 【実践編】自宅の電源インピーダンスを測ってみよう

手順は非常にシンプル。ドライヤーとテスターを同じコンセント(またはタップ)に繋ぎ、以下の2ステップで電圧を測るだけです。

  1. 無負荷時の電圧を測る: ドライヤーの電源がOFFの状態での電圧をメモします。
  2. 負荷時の電圧を測る: ドライヤーを「最大出力(1200W/ターボ時)」にして稼働させ、その時の電圧をメモします。

その時の測定を実際に動画にしてみました。

さて、自室内の複数箇所で測定したリアルなデータと、そこから導き出されたインピーダンスを見てみましょう。コンセント、電源タップの配置と電源インピーダンスを図にまとめたイラストがこちらになります。ご覧ください。

自宅電源の配線抵抗測定。配電盤~電源タップの図
自宅電源の配線抵抗測定。配電盤~電源タップの図

測定1:壁コンセントの実力チェック(3箇所で測定)

まずは大元の基幹インフラである「壁のコンセント」を2箇所測ってみました。

【A:自室の入り口コンセント】

AstroAI DM6000AR AC/DC 抵抗、電流測定機能など一通り網羅した人気モデル。安価だが、歪んだ正弦波でも測定できる真の実効値計測機能も備えている。
  • 無負荷時:102.8V / 負荷時:100.5V
  • 電圧降下:2.3V
  • 計算:負荷時の100.5Vを、ドライヤーの抵抗(約8.33Ω)で割ると、流れた電流は「約12.06A」です。電圧降下の2.3Vをこの電流で割ると、インピーダンスが出ます。
  • 計算結果:約0.191Ω(191mΩ)

【B,C:別のコンセント】

  • 無負荷時:103.0V / 負荷時:100.7V
  • 電圧降下:2.3V
  • 計算結果:約0.190Ω(190mΩ)

【結果】 3つのコンセントで「約190mΩ」というほぼ同じ数値が出ました。つまり、この家の分電盤から部屋の壁までの配線は、約190mΩという非常に安定したインフラを持っていることが証明されました。ここがすべての基準になります。

【コラム:分電盤からの「距離」でもインピーダンスは変わる】

ちなみに、自室から少し離れた「隣の寝室」の壁コンセントも測ってみたところ、無負荷時103.0Vから負荷時100.5Vに低下し、計算結果は約207mΩでした。 自室(約191mΩ)と比べて、約16mΩほど抵抗が増加しています。これは、寝室が自室よりも分電盤(ブレーカー)から物理的に離れており、壁の中を通っている屋内配線(VVFケーブルなど)の距離が長くなった分の「純粋な銅線抵抗」が上乗せされた結果です。 オーディオ機器を設置する際、「できるだけ分電盤に近い部屋やコンセントを選ぶ」というマニアの経験則も、こうしてテスター1つの実測結果から物理的に証明できるのです。

測定2:壁コンセント + 高品質15A電源タップ(2m)

次に、基準となる壁コンセントに、パナソニック製の極太線(2.0スケア)を採用した電源タップ(電流定格15A)を経由して測定しました。

PANASONIC電源タップ15A 市販品であるが優秀な特性
  • 無負荷時:103.6V / 負荷時:100.6V
  • 電圧降下:3.0V
  • 計算結果:約249mΩ

【結果】 タップ単体の抵抗値は推定約50mΩであり、壁のインピーダンス(約191mΩ)と足し合わせても、悪化を最小限(+58mΩ)に抑え込んでいます。これは「良質なタップ」の証拠です。

このケースでは配線全体の25%程度が電源タップとケーブルのインピーダンスという事になります。意外に大きいと思いました。 この結果からわかる事は、電源タップとケーブルのインピーダンスは全体の配線に対して微々たるものなので音質には影響がないとする説は一概にそうとは言えないかもしれないという事になると思います。

測定3:机の下の電源タップからさらに延長した電源タップ(経年劣化)

最後に、部屋の隅に転がっていた、ごく一般的な延長タップを経由して測定しました。

延長した電源タップの電圧は4.7vも電圧降下している
延長した電源タップの電圧は4.7vも電圧降下している
  • 無負荷時:103.4V / 負荷時:98.7V(! 100Vを大きく割り込みました)
  • 電圧降下:なんと4.7V
  • 計算結果:約397mΩ

【結果】 ケーブルの延長が致命的なボトルネックとなり、壁コンセントが持つ本来の実力(191mΩ)を完全に殺し、一気に+206mΩも悪化させています。分電盤からの距離による増加(16mΩ)など可愛く思えるほどの、圧倒的な劣化です。このケースでは配線全体の50%程度が電源タップとケーブルのインピーダンスという事になります。つまり、それだけ音質に与える影響も大きくなると予想できるのです。

4. この数十mΩがオーディオの「躍動感」に影響する理由

実測データが示す通り、壁直挿し(190mΩ台)に対し、適当な延長コードを通すとインピーダンスは倍増(397mΩ)してしまいます。

「たかだか数ボルト電圧が下がるだけでしょ?」と思うかもしれません。しかし、ここまでの違いがオーディオの音質に直結するのには、明確な物理的理由があります。特に顕著な例と考えられるのがオーディオ用パワーアンプの「コンデンサインプット型電源」です。

コンデンサインプット型電源のイラスト
コンデンサインプット型電源のイメージイラスト

一般的なオーディオアンプは、内部の巨大なコンデンサに電気を蓄えてからスピーカーを駆動します。しかし、このコンデンサを充電するためには、交流(AC)波形の「頂点」のほんの一瞬だけしか電気を吸い込むことができません。

キックドラムなどの強烈な低音を再生してアンプが瞬間的にパワーを絞り出す際、波形の頂点では平均消費電流の数倍〜10倍以上(10A〜20A)という巨大なピーク電流が要求されます。

もし、机の下の延長コード(397mΩ)のようなインピーダンスが高い環境だとどうなるでしょうか? アンプが「今だ!」と大電流を欲しがったまさにその瞬間に、オームの法則によってコンセントの電圧が数ボルト単位で急降下します。アンプは予定していた電力を確保できず「息継ぎ」をしているような酸欠状態に陥り、肝心なところで音のダイナミクス(躍動感)が失われてしまうのです。

AC電源の歪んだ電圧波形。最も高いピークの所で頭が平らになる現象はフラットトップと呼ばれている
AC電源の歪んだ電圧波形。最も高いピークの所で頭が平らになる現象はフラットトップと呼ばれている

5. まとめ:基幹インフラを知れば、オーディオの「電源オカルト」は物理学に変わる

オーディオにおいて、極太の電源ケーブルや高品質な壁コンセント、そして堅牢な電源タップに投資することは、決してオカルトではありません。アンプが要求する瞬間的な大電流を、電圧降下というボトルネックを起こさずに送り届けるための「理にかなった物理的アプローチ」なのです。

今回の実験でも、劣化した一般的な延長タップ(測定③)を、極太ケーブルを採用した良質な電源タップ(測定②)に交換することで、インピーダンスの悪化を最小限に抑えて給電できることが証明されました。

何万円もする高品質なオーディオアクセサリーを買う前に、まずは3,799円のテスターとドライヤーで、ご自宅のコンセントの実力を測ってみるのは如何でしょうか? あなたの部屋の「基幹インフラ」の現状を数字で把握することが、理想のオーディオ環境を構築するための、第一歩になるかもしれません。

今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。


補足:ユーザー別テスター選択の最適解

テスターについてその他、定番のモデルを予算別に調査しました。購入する際の参考まで。

HIOKI、AstroAI、フルークとそれぞれ1台づつ以前購入し所有していますが、それぞれ良さがあると思いますのでお勧めしておきます。

主要メーカー・ブランド

ユーザー別テスター選択のリスト

今回の測定に実際に使用したデジタルマルチメーター(テスター)です。

HIOKIはアナログ式を持っていますが最近はデジタル式が多いですね。

FLUKEはもう少し高いのを持っています。最近は大分価格も下がって来たようですね。

電源タップの重要性という過去記事です

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By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。