こんにちは、manotchです。
前回の記事では、オーディオケーブルを物理的に振動させると、ケーブルによって異なる「声(周波数特性)」を発すること、つまり「ケーブルの音のキャラクターはマイクロフォニック音の周波数特性というデータで明確に可視化できる」という実験結果をご紹介しました。

その時の実験結果はこちら!

※グラフの見方
「(振動あり…赤色の線 / 振動なし…黒色の線)」になります。赤色の線から黒色の線を差し引くと振動のみの信号レベル差になります。グラフを見ると黒色の線は赤色に対して1/10以下程度となりほぼ振動ありの信号が見えています。横軸は周波数レンジ10~5,000Hz、縦軸は信号電圧レンジ1uV~10V、1目盛り10倍(20dB)です。
★大雑把に言うと
縦軸はログスケール(電圧)で、信号レベルで言うと10倍から100倍の違いがあった。
★実験から得た知見
- 振動が強いほど、マイクロフォニック音ノイズは大きくなる。⇒振動が主原因と分かる。
- 発生するマイクロフォニック音ノイズは、元の振動とは異なる「歪んだ」波形をしている。
- そして何より、ケーブルAとBとCでは、ノイズの周波数特性(グラフの山の形)が全く違う!
★ケーブル毎の特徴(グラフの波形の傾向)
- ケーブルA・・・低域を中心に鋭いマイクロフォニック音のノイズが多く出る特徴
- ケーブルB・・・中高域に寄ったピークが出る特徴
- ケーブルC・・・他のケーブルより全体的に20dB以上もノイズが小さい特徴
★ケーブルが振動する要因(物理現象)
- スピーカーから放たれる音圧や直接的な振動
- 摩擦電気効果(Triboelectric): ケーブルにおいて、摩擦電気は、電圧がなくても内部の摩擦だけで自ら電荷を生み出す現象。
- ローレンツ力: コイルやケーブルにおいて、磁場の中を流れる電流に対して発生する力。
このマイクロフォニック音は録音機やアンプを通すことでビービーやキーキーといった可聴帯域の音として実際に聴くことが出来ます。
その時の記事はこちらをご覧ください。おかげさまでGoogleニュースに掲載されたり、Xでもたくさんの方にご覧頂きました。ありがとうございます!
目次
■コンデンサに音のキャラクターはあるのか
「ケーブルでこれだけ違うなら、アンプなどのオーディオ機器の中に入っている部品はどうなんだろう?」
そんな疑問が湧いてきませんか?
今回はオーディオ機器の要(かなめ)とも言える部品、「コンデンサ」にスポットを当ててみたいと思います。

■オーディオ機器に使う部品「コンデンサ」って何?
オーディオ機器における「コンデンサ」は、非常によく使われる重要な部品ですが、その働きは見えにくいため少し難しく感じるかもしれません。

一言で言うと、コンデンサは電気を一時的に貯めたり、放出したりする『ダム』や『ポケット』のようなものです。
1. 電気をきれいにする役割(電源平滑)
オーディオ機器がコンセントから取り込む電気は、実はそのままでは少し波打っていて不安定(汚れた水)です。これを安定(きれいな水)にするのが、コンデンサの役割の一つです。

2. 必要な「音」だけを通す役割(カップリング)
それともう一つ。電気には「一方通行の流れ(直流)」と「行ったり来たりの振動(交流=音の信号)」の2種類があります。オーディオ機器内部では、この2つが混ざっていますが、次の回路やスピーカーに渡すときは「音の信号」だけを渡したい場合があります。こちらはカップリングコンデンサと呼ばれています。

■コンデンサに音のキャラクターはあるのか
オーディオ自作派の間では、「コンデンサを高級品に交換したら音が激変した」「セラミックコンデンサは音が硬い」といった話が交わされます。しかし、これも電気的なスペック(容量など)が同じであれば、なぜ音が変わるのか不思議ですよね。
そういった経緯があったので、これまでのケーブルの測定データからコンデンサも同様に「振動(マイクロフォニック音)」が大きく関わっているんじゃないか?と考えました。
■コンデンサをコンコンたたくと音が出る?
「コンデンサに音のキャラクターがあるなんて、スピーカーじゃあるまいし」と思ったあなた。
「コンデンサマイク」をご存じでしょうか?ボーカル録音などで使われる高音質なマイクです。

このマイクは、名前の通り「コンデンサ(蓄電器)」の原理を応用しています。薄い振動板が音で揺れることで、内部の電極間の距離が変わり、静電容量が変化します。その変化を電気信号として取り出すのがコンデンサマイクの仕組みです。
つまり、オーディオ基板に実装されているコンデンサも、原理的にこれと同じことが起きていると考えられます。コンコンたたくと大なり小なりマイクロフォニック音が発生するのです。
前回の記事の最後に触れたように、電子部品は外部からの振動がなくても、電流が流れること自体によって自ら振動しています(ホースに水を流すと震えるのと同じ原理です)。この振動によってコンデンサ内部の素子がわずかに揺れれば、静電容量が変化し、マイクロフォニック音として音楽信号に重畳されるのです。
「コンデンサマイクに音のキャラクターがあるように、オーディオ用コンデンサにも音のキャラクターがある」
そう考えると、これはオカルトでも何でもなく、極めて自然な物理現象だと思えてきませんか?
■コンデンサA,B,C 比較実験
では、コンデンサの種類によって、その「振動の仕方(=発生するマイクロフォニック音の周波数特性)」に違いはあるのでしょうか? オーディオ機器に使用される代表的な3タイプのコンデンサを用意し、前回同様の測定系(振動スピーカーで一定の振動を与え、発生する電気信号をFFT解析する)で比較実験を行ってみました。
実験に用いたコンデンサの種類
- A 電解コンデンサ: 電源回路などでよく使われる、円筒形のコンデンサ。中~大容量が得意。
- B フィルムコンデンサ: オーディオ用として良く使用されるコンデンサ。小~中容量が得意。
- C セラミックコンデンサ: 高周波特性が良いとされるコンデンサ。小~中容量が得意。

実験のために作成した治具です。上の2つはA.電解コンデンサ、下はB.フィルムコンデンサです。そして、下の円板状のものがC.セラミックコンデンサです。

リード線の長さは全て5センチに統一しました。外来ノイズをなるべく拾わないように撚線にしています。コンデンサの容量も全て良く使用される0.1μFに統一しました。
測定系のブロック図は以下の通りです。
[ブロック図]

先ほど作成した治具の先端に取り付けた3種類のコンデンサを、図中の振動スピーカーに固定してコンデンサから発生した信号(マイクロフォニック音)をオーディオインターフェイスを介してPCの音声解析の代表的なソフトREWでFFT解析しました。測定系を開示する事で第三者による検証も可能にしました。

実験中の様子
注)FFT解析とは、一言でいうと「音の”成分”分析」です。
一見ただの複雑な波形にしか見えない信号を、FFT解析にかけると、
「どの周波数(音の高さ)の成分が、どれくらいの強さ(音量)で含まれているか」
をグラフにして、一目でわかるように分解・可視化してくれる技術です。ごちゃ混ぜの音から「ド」と「ミ」と「ソ」の音量を取り出すようなイメージですね。

それぞれ3タイプのコンデンサを治具に取り付けた様子です。赤いリード線の先端はコンデンサが繋がっているだけなので無信号状態です。この状態で3.5mmミニプラグからオーディオインターフェイスに接続し、PCへ音声データを渡し記録します。

セラミックコンデンサを振動スピーカーの振動板にクリップによる一定の力で固定している実験風景です。信号源は基本波100HZの方形波です。200HZ,300HZ,・・・20KHZというように高次の周波数まで含む歪んだ信号波形になります。
動画の見方(実験途中の様子)
左下の方にあるのが振動スピーカーです。その上にコンデンサを載せて触れたり離したりします。コンデンサが振動板に当たった瞬間、PCのFFT解析画面に大きくマイクロフォニック音が10~20KHzの広範囲にわたって発生する様子が分かります。
接触音を聴くと「ジャジャジャーというような歪んだ感じの音」や「チィーーーーというような汚い高音」が出てますね。振動を受けたコンデンサは果たしてマイクロフォニック音「=コンデンサの声」を出しているのでしょうか?
■実験結果:驚きの違いが!
実験が終わり、データを並べて見てみると、思わず「なるほど!そうなるのか」と一人で納得していました(笑)
やはり、ケーブル君と同じくコンデンサA君もB君もC君もそれぞれ個性的な声を発していたのです。
そう、コンデンサのタイプによっても、はっきりとマイクロフォニック音の周波数特性に傾向が現れたのです。
その結果のグラフをまとめてみました。はい、こちら!

※グラフの見方
「(振動あり…赤色の線 / 振動なし…黒色の線)」になります。赤色の線から黒色の線を差し引くと振動のみの信号レベル差になります。グラフを見るとセラミックコンデンサは赤色に対して黒色が1/10以下程度となりほぼ振動ありの信号が見えています。横軸は周波数レンジ10~20,000Hz、縦軸は信号電圧レンジ1uV~10V、1目盛り10倍(20dB)です。
1. 電解コンデンサ
マイクロフォニック音の発生はフィルムコンデンサより多め。20KHzの高音域まで徐々に減衰する傾向ですが、比較的素直な特性をしています。
2. フィルムコンデンサ
マイクロフォニック音の発生は電解コンデンサに比べて比較的穏やかです。グラフを見ても、特定の周波数で多少の盛り上がりがあり、いくつか少し癖がありますが、電解コンデンサに比べると全体的にノイズレベルは低めに抑えられています。特に10~20KHzといった高音域でマイクロフォニック音が小さくなりました。
3. セラミックコンデンサ
これだけ他のコンデンサと比較して全く別物の傾向になりました。中高域にかけて、ノイズレベルが非常に大きく、しかも鋭いピーク(山)がいくつも発生しています。 この鋭いピークは、ちょうど人間の耳が敏感な帯域とも重なります。微細な信号を扱う回路やハイゲインな増幅回路に使うと、音がピーキーになったり歪んで聞こえたりする原因になりそうなことがデータから容易に推測できます。
何度測定し直しても結果は同じで、明らかに再現性がありました。 実はこれ、電子回路に詳しい方ならピンと来るかもしれませんが、セラミック特有の「圧電効果(ピエゾ効果)」と呼ばれる現象が関わっている可能性が高いと考えています。
ただし、だからといって一概に悪いという訳ではなくギターアンプなど音を歪ませて使う回路にはマッチして良い音の味付けになるかもしれませんね。
■総括
結論:いずれにせよオーディオ機器で使用するコンデンサに「音のキャラクター」は存在する
今回の実験結果がどのような原理に基づいて生じているのか、それはさらに実験を深堀りしないとわかりません。
しかし、今回の実験の目的は「オーディオ機器に使用するコンデンサによって特性差があるか?」を確かめることでした。その点において、答えは「YES」です。
たとえその原因が「構造」であれ「材質」であれ、分からないことは多いですが、
コンデンサの「構造(内部)」「材質・・・電解質、フィルム、セラミック」「硬さ」といった物理的な違いが、マイクロフォニック音の「周波数特性」として、明確に「データとして可視化」できるほどの差を生む。
この事実は非常に興味深いと思いませんか?

次回は各タイプのコンデンサを分解してみたいと思います。
なぜセラミックコンデンサは特にキャラクターが出るのか? フィルムや電解コンデンサの構造がどう振動を抑制しているのか?
特に 「強誘電体」や「圧電効果」といった物理現象の視点から、その正体に迫っていきたいと思います。お楽しみに!
今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。
以前投稿した記事です。興味がある方はご覧くださいね。
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