こんにちは、manotchです。

前回の記事では、高性能な据え置きUSB DACを使用してもUSBケーブルのGND絶縁有無(性能差)によって残留ノイズに有意差が生まれるという実測データをご紹介しました。

今回はその実験の妥当性を、さらに追加検証してみます。

ここでの妥当性の検証とは、①再現性(いくつかの代表モデルで同様の現象を確認できるか)、そして②理論的な考察(可変抵抗を用いた実験結果が理論と一致するか)の2つのアプローチで行います。

■おさらい ①実験の再現性

前回の記事では「再現性」を確認するため、バッファロー、S.M.S.L、FIIOというメジャーなメーカー3社のDACで実測データをとり、同様の現象(絶縁によってノイズが減る現象)が起きることを確認しました。

S.M.S.L社DS100 USB DACのノイズの差(有意差がある)
S.M.S.L社DS100 USB DACのノイズの差(有意差がある)

また、DACの持つノイズ対策の程度によってもそのノイズの大きさやピークの立つ周波数に有意差がある事も分かりました。

FIIO K9 AKMは、S.M.S.L DS100よりも「絶縁なし」という悪い条件下において、高域の残留ノイズのピークがあまり出ていません。本体側でかなり念入りなノイズ対策がされていると推定できます。※S.M.S.Lが劣るという訳ではないです。価格グレードによるコストやノイズ対策に対する設計思想の違いもあると思います
FIIO K9 AKMは、S.M.S.L DS100よりも「絶縁なし」という悪い条件下において、高域の残留ノイズのピークがあまり出ていません。本体側でかなり念入りなノイズ対策がされていると推定できます。※S.M.S.Lが劣るという訳ではないです。価格グレードによるコストやノイズ対策に対する設計思想の違いもあると思います

■ ② 理論と実験の傾向が一致するか(追試験)

まずは理論的な考察から。

今回の実験に使う測定系は前回の記事とほぼ同じですが、USBケーブルのアイソレーション(絶縁性能)を意図的にコントロールできるよう、下図のようにGND経路へ「青い可変抵抗(ボリューム)」を挿入します。

理想的な状態=伝導ノイズ絶縁性能(高)から現実=絶縁性能(低)まで測定条件を大きく振るという意味があります。

USBケーブルを伝達するデータは0と1でビットパーフェクトの状態です。

青い矢印が伝導ノイズが通過する経路
青い矢印が伝導ノイズが通過する経路

PCとDACが直結された状態では、USBケーブルが青い矢印の経路を通る一種の「ループアンテナ」として振る舞い、空間のノイズを強力に拾っていると推測されます。

果たして、抵抗値を変えると結果はどうなるでしょうか。動画に収めてみました。

モニタースピーカーからも音を出していますので興味がある方は音声も聴いて見てください。0Ωなら伝導ノイズは殆ど通過、500Ωなら殆ど遮断です。

動画をご覧いただくと、可変抵抗の値を大きくしていく(絶縁状態に近づける)と、理論通りに残留ノイズがスーッと低下していく様子が確認できます。

PCとDACがGNDで直結された状態(0Ω)では、USBケーブルと機器全体がグラウンドループ(ループアンテナ)を形成します。そこに抵抗を挟んでループを電気的に断ち切っていくことで、ノイズ電流が流れにくくなり、結果として残留ノイズが小さくなったと考えられます。

ちなみに、「GNDループを絶縁して切断すれば、もうノイズの影響を一切受けなくなるのか?」というと、そんなに甘くはありません。

ループが切れると、今度はループアンテナではなく「直線状(モノポール)のアンテナ」として、さらに高い周波数のノイズの影響を受けるようになります。これはスペアナを用いる事で測定する事が出来ます。高周波ノイズとは、中々やっかいなものです。

■ 参考文献など

USBケーブルがアンテナのようにふるまい、DACの残留ノイズに有意差が出る現象についてはEMC理論で説明できる既知の物理現象です。

実際の実務としてどこまでノイズ対策を行い音質を追い込めるかは、時間とコストの兼ね合いと言えるでしょう。下記はEMC理論の参考文献の一例です。

ノイズ対策ですが、デジタルを扱う回路には今や必須と言えるスキル
ノイズ対策ですが、デジタルを扱う回路には今や必須と言えるスキル

■USBケーブルの理想と現実

USBケーブルで音質が変わらないというのは一種の理想とも言えますが、必ずしも正しくないのが現実です。

ハードウエアのエンジニアの努力のたまものにより、ノイズなど外的な要因によりなるべく電気的な特性の悪化がないようオーディオ機器側で対策しているという事です。(オーディオプレシジョンなど測定器を使ってスペックを満たす程度までノイズ対策しているため、スペック的には変わらないように見えているだけ)

■ ノイズフロアの増減は「聴感」にどう影響するのか?

この実験、残留ノイズの増減が人間の聴感にどのような影響を与えるかという視点で実際の音を聴いてみると結構面白いです。先ほどの動画は分かりにくいかもしれませんが、モニタースピーカーから音が出ています。

主信号が出ている状態でフロアノイズレベルをふっと下げると、バックグラウンドのざわついた感じが無くなり、信号がくっきりと立体的に浮かび上がるような感覚を覚えます。

ネットワークオーディオにおいて、ルーターやハブの電源を低ノイズなものに変更した時に感じる、あの見通しが良くなる感覚と同じです。

……と、ここまで言っておいてアレなんですが、「ノイズ対策は必ずしも音が良くなるとは限らない」というのがオーディオの難しいところです。

ノイズが減りすぎて味気なく感じたりすることもあるので、人間の聴感とは面白いものだと思います。

■ 残留ノイズの変化を体験できるシミュレーションソフト

今回の実験結果を踏まえて、「USBケーブルがアンテナになり、DACのアナログ出力に残留ノイズが出る様子」を視覚・聴覚的にイメージできるシミュレーションソフトを自作してみました。

画面上のスライドバーを動かすと、ノイズの強度によって周波数スペクトラムの形が変わることが分かります。 60-120Hz付近のハムノイズや、4-8kHz付近のUSB信号起因のノイズが高くなると、その周波数帯にある本来の微小な音楽信号がかき消される「マスキング効果」が生まれます。これが、音の印象を変える要因になっている可能性があるかもしれませんね。

今日はここまでにします。最後までお読みいただきありがとうございました。

2026.9.16 noteより転載

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By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。 開発経験DC~110GHz。