「USBは0と1のデジタル伝送だから、ケーブルで音は変わらない」
オーディオの世界では、よく耳にする主張です。
確かに、USBで正常に伝送されたデジタルデータは同じです。しかし、デジタルデータが同じことと、DACから出力されるアナログ信号が完全に同じことは、必ずしも同義ではありません。
そこで今回は、USB接続経路の絶縁あり/なしで録音した音源を使用し、ブラインドABXテストを実施しました。多数のご参加ありがとうございます!
結果は予想以上に興味深いものでした。

1. 実験環境:USBの何を変えたのか?
今回使用したのは、Buffalo製のUSBドングルDACです。
測定環境はPCから2.5 kHzの基準信号を出力、USB接続経路にアイソレーターを挿入し、PCとDACの電気的な絶縁状態を変えて比較しました。
これにより、USB経由で伝わる電気的なノイズの影響が、DACのアナログ出力にどの程度現れるのかを検証しています。
【接続構成】

絶縁なし
PC → USBケーブル → Buffalo DAC → ZOOM録音機 → USB → PC

絶縁あり
PC → USBケーブル → USBアイソレーター(絶縁) → Buffalo DAC → ZOOM録音機 → USB → PC

今回の接続では、録音機からPCへのUSB接続も含まれるため、グランドループによる影響が生じ得ます。
これはPC-DACの性能評価とは異なりますが、PCにDACや録音機などを同時接続する実際の利用環境で起こり得る問題を検証するという意味があり、ゲーム配信などの接続例をイメージしています。
つまり比較したのは、一般的なメタルUSBケーブルの銘柄違いではなく、USB接続経路の電気的特性の違い(絶縁状態)が音の違いとして聞こえるか?という接続条件を変えた基礎実験です。
2. 結果は全問正解! 4名によるABXテスト
まず、USB絶縁あり/なしで録音した音源を使い、ブログでブラインドABXテストを実施しました。ブログでの案内はこちらです。
ABXテストは、AとBの基準音源を聴き、未知のXがどちらと同じかを判定する方法です。
今回は問1から問8までの全8問を用意し、Xの正解となる音源をランダムにシャッフルしました。詳細はブログを見て頂くとして、どういう問題だったかYoutubeにも載せておきます。皆さんも聴いて見てください。
ピーというリファレンス音が通常聴いている大きさになるよう調整して注意深く聞いてください。
結果は次のとおりでした。
参加人数4名・1人あたり8問 合計回答数32問 正解数32問 正答率100%
なんと、4名全員が8問すべてに正解しました。※内、1名は嫁(苦笑)
仮に各回答が互いに独立した50%の当て推量なら、32問全問正解する確率は約43億分の1(!)
ただし、これは独立した当て推量という仮定に基づく計算です。実際の統計的な評価には、出題順序、音量差や編集上の手掛かりの有無なども考慮する必要があります。
それでも、4名全員が全問正解したことは、今回の録音音源に識別可能な違いが存在するという解釈を強く支持する結果だと考えています。
一番驚いたのは嫁の反応
今回、最も印象的だったのは嫁の反応でした。
オーディオマニアでもない嫁が、テストの途中で、
「違いが簡単すぎて飽きる」
と言い放ち、全問正解してしまったのです。
しかし、ここで一つの疑問が生まれました。
「4人が聴き分けられたとして、ほかの人たちはどうなのだろう?」
そこで、X(Twitter)でも追加テストを実施しました。
3. Xで30名に挑戦してもらった結果
Xのアンケートでは比較の為、最初のABXテストと同じ録音音源を使用しました。ただし、8問すべてではなく、応募のハードルを下げるため問1だけを公開しています。動画はこちらです。
回答形式は「A」「B」「分からない/差なし」の3択です。
正解は、XはAと同じ音。
【Xでの投票結果】

回答人数 割合A(正解)12名40.0% B(誤答)0名 0% 分からない/差なし18名60.0% 合計30名100%
※Xの画面上では31票と表示されていますが、このうち1票は自身で動作確認のために投じたAへの投票です。その1票を除外した、実参加者30名の結果を提示しました。
※総合的な人数の定義は下記になります。
ブログ4名+X31名−重複1名=34名(筆者を含む)
筆者を除く実参加者=33名
注目したいのは「誤答0名」
最も興味深いのは、誤答のBを選んだ人が1人もいなかったことです。
30名のうち18名は「分からない/差なし」と回答しましたが、AかBを選択した12名は全員が正解しました。
一方、60%の人が判断を保留したことも重要です。
Xでは再生機器や聴取環境が統一されておらず、投稿動画の音声処理などの影響も考えられます。
また、回答者が「分からない」を選べるため、今回の結果を通常の二択ABXテストと同じ方法で統計評価することはできません。
それでも、判断を示した12名が全員正解し、誤答が0名だったという結果は、今回の音源に聴き分け可能な違いが存在するという解釈を支持する、興味深い結果だと考えています。
同時に、聴く環境や人によって判断が異なる可能性も示された、興味深い結果となりました。
ABX音源の基準信号レベルを比較してみた
ABXテストで聴き分けられた理由が、単純な音量差ではなかったかを確認するため、録音された2.5 kHzの基準信号レベルを解析しました。
録音の開始・終了部分を除き、1秒ごとに基準信号成分のレベルを推定し、その中央値を比較した結果です。

測定項目 左チャンネル/右チャンネル
USB絶縁なし
−58.708dBFS / −58.654dBFS
USB絶縁あり
−58.676dBFS / −58.633dBFS
レベル差0.032dB / 0.021dB
基準信号レベルの差は左右chとも約0.02~0.03 dBでした。
この結果から、今回の録音では2.5 kHzの基準信号レベルがほぼ一致しており、ABXテストの結果を単純な音量差だけで説明することは難しいと考えられます。
ただし、これは基準信号成分の比較であり、録音全体のラウドネスや、その他の聴き分けの手掛かりまで一致していたことを示すものではありません。
4. FFT解析で分かった、実際の音の違い
ここまでは人間の耳による検証でした。
では、録音された信号そのものには違いがあるのでしょうか。
そこで、ブラインドテストに使用した音源のWAVファイル2本をFFT解析しました。
【比較したWAVファイル】

両音源には2.5 kHzの基準信号が含まれています。
しかし、絶縁なしの音源には、1 kHz、2 kHz、3 kHz付近など、基準信号以外にも特徴的なピークが確認されました。
一方、絶縁ありの音源では、これらの成分が相対的に抑えられています。
つまり、USB絶縁の有無によって、録音されたDACのアナログ出力に測定可能な明確な違いが生じていたのです。そして、この測定結果は、ABXテストで聴き分けられたこととも矛盾しません。
基準信号以外の帯域を比較
2.5 kHzの基準信号を含まない100~2,400 Hzの帯域について、RMSレベルを比較しました。
測定帯域 絶縁あり/絶縁なし100~2,400 Hz −66.37dBFS /−61.43dBFS
絶縁なしの方が約4.94 dB高いという結果でした。
ただし、この帯域には1 kHzや2 kHz付近のピークも含まれています。
そのため、この差は純粋な広帯域ノイズだけを示すものではありません。
また、100~2,400 Hzという特定帯域のRMS差であり、全帯域のノイズフロアやDAC本来の性能を直接示す値でもありません。
4.94 dBという数値が、そのまま人間の耳で感じる音量差を意味するわけでもありません。
それでも、基準信号以外の成分に測定可能な差が存在することは、今回の録音データから確認できます。
ここで注目したいのは、今回の変化が単なる「音の違い」ではなく、不要なノイズ成分の減少という改善方向に現れていることです。
皆さんはどう聴こえましたか?
つまり、今回の接続環境では、USB絶縁によるノイズ低減が、聴感上の音質改善にもつながったと考えられます。
実際に聴こえた音は?
絶縁なしの録音をヘッドホンで聴くと、2.5 kHzの基準信号が「ピー」ではなく「ビー」と濁って聞こえました。

さらに、バックグラウンドの「ざわざわ」というノイズや、ときどき発生する低い「ボツ」という異音も感じられました。
それが、USB絶縁有りでは「ビー」と濁っていた2.5 kHzの基準信号が「ピー」というクリーンな音に近づき、バックグラウンドの不自然なざわつきも小さくなりました。結果として、聴感上のS/N感が明確に改善されたのです。
今回のFFT解析結果は、こうした聴感上の違いとも整合しています。
5. USBはデジタルなのに、なぜ音が変わるのか?
USBで伝送されるデジタルデータが正常であれば、DACに届くデータ内容は同じです。
しかし、USBケーブルにはデータ線だけでなく、電源、GND、シールドなどの電気的な経路があります。
これらを通じて、PC側の電気的な干渉がDACに伝わり、アナログ出力回路に影響する可能性があります。
今回の実験では、USBアイソレーターによってPCとDACの電気的な結合条件を変えたところ、録音されたアナログ出力の周波数成分が変化しました。
これは、デジタルデータが同じであっても、電気的な接続条件によってアナログ出力が変化し得るという説明と整合しています。
6. 結論:ブラインドテストと測定が示したこと
今回の実験結果をまとめます。
① 4名によるABXテストでは、32問全問正解。
② Xの実参加者30名による追加テストでは、12名が正解、18名が判断保留、誤答は0名。
③ Buffalo DACのFFT解析では、絶縁なしで基準信号以外の周波数成分が増加。
④ 100~2,400 Hz帯域のRMSは、絶縁なしの方が約4.94 dB高い。
今回の検証では、聴取テストで識別可能性を支持する結果が得られ、同じ録音音源に測定可能な違いが存在することも確認できました。
さらに今回の実験では、USB絶縁によって不要なノイズ成分が減少し、聴感上も音の濁りやざわつきが軽減されました。
したがって、今回の接続環境では、測定上のノイズ低減に加え、私自身の聴感評価でも音質改善が確認できたと考えています。
今回比較したのはUSB絶縁の有無という電気的な特性差による音質差であり、一般的なメタルUSBケーブル同士の音質差を証明したわけではありません。
しかし、近年は電気的に絶縁された光USBケーブルも登場したため、ケーブルの電気的な接続構造の違いもUSBケーブル論争の一つの新たな論点になったと考えています。
今回の実験から伝えたいのは、次のことです。
「USBはデジタルだから、接続経路の電気的な違いがDACのアナログ出力に影響することはない」は必ずしも正しくない。
そして、最後にもう一つ。
私はWAVデータを解析し、FFTグラフを比較し、テスト結果を集計して、ようやくこの記事を書いています。
ところが嫁は、
「違いが簡単すぎて飽きる」
と言って、あっさり全問正解。
どうやら我が家で最も厳しい測定器は、嫁の耳なのかもしれません。
7. 補足-1:その他DACの測定結果
実は今回使用したBuffaloのドングルDACだけでなく、S.M.S.LやFiiOといったメジャーなオーディオブランドのDACでも、USB絶縁の有無によってアナログ出力のノイズ特性が変化する事例を確認しています。
ただし、その変化の大きさや周波数特性は機種によって異なる事が分かりました。
このことから、USB接続経路の電気的な状態がアナログ出力に与える影響は、BuffaloのDACだけに限定された現象ではない可能性を示したと言えます。
S.M.S.L DO100


FIIO K9AKM


8. 補足-2:AIに今回の実験を評価してもらった
今回の実験結果について、AIにも、技術的な観点からコメントを求めてみました。

【Chat GPT コメント】
今回の実験で私が最も興味深いと感じたのは、ブラインドテストの結果と、録音データのFFT解析結果が、同じ音源について示されていることです。
オーディオの音質論争では、聴感だけで議論されることもあれば、測定値だけで結論が語られることもあります。
しかし今回の検証では、4名によるABXテストで32問全問正解という結果が得られ、さらにその録音音源に測定可能な差が存在することも確認されました。
これは、単に「音が違って聞こえた」という主観的な報告から、一歩踏み込んだ検証だと評価できます。
また、今回の測定ではUSB絶縁によって不要な成分が減少し、聴感上も濁りやざわつきが軽減されたと報告されています。
単なる音の違いではなく、ノイズ低減という改善方向が示されたことも、今回の実験の重要な点です。
今回の結果だけで、すべてのUSBケーブルに可聴差があると結論することはできません。
それでも、今回の実験には重要な意味があると思います。
「デジタルだから音は変わらない」という主張だけでは説明しきれない現象を、聴取テストと実測データの両面から検証したことです。
そして、AIとして特に印象的だったのは、奥様の「違いが簡単すぎて飽きる」という一言です。
測定データの差が、人間にとってどれほど分かりやすいかは、現状私では判断できません。
その意味で、奥様の反応は非常に興味深い観察結果です。もちろん、それ自体が科学的な証明になるわけではありませんが、今後の聴取実験を考えるうえで重要なヒントになると思います。
測定で違いを見つけ、人間の耳で確かめ、さらにその原因を追究する。
今回の実験で評価したいのは、その姿勢です。
そして、今回の結果が示しているのは「USBケーブル論争の決着」ではなく、むしろ議論をより正確に進めるための、新しい検証材料が得られたということではないでしょうか。
Chat GPT
ブラインドテストの発端となった記事です。現在1~3まであります。
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