オーディオの電源強化のアプローチですが、今回はスイッチングノイズが見つかったことからノイズ削減の方に取り掛かりたいと思います。ここで今回ノイズ対策するにあたって自分の再生系の整理をしてみました。

はい、こちら!

■オーディオ機器の再生系を整理してみる

左側からオーディオ機器の上流で①ノートPCから②DACへ信号が経由して③ヘッドホンアンプへと接続されています。

これを見て思ったのは、①ノートPC、②DAC、③ヘッドホンアンプのどれもスイッチング電源方式のACアダプターを使っているな、という事です。据え置き型のオーディオ機器であれば電源内蔵でACから直接スイッチング電源を使用せずに電源供給されるタイプも多いかと思います。しかし、比較的ローコストなオーディオ機器では外部電源にしてACアダプターから電源を取ることが多くなっているようです。

ACアダプターを使った外部電源のメリットは大量に生産されているため安価にできるという事があると思います。ACアダプターはパソコンなどでオーディオ機器とは桁違いに生産されていますので量産効果で安価になっています。安価な割に性能が良いので費用対音質的な所のコスパが良くなるという事になると思います。

それから取り換えが効くのでこれから行おうとしている電源容量アップやノイズ対策が行いやすいという点も見逃せません。内部に電源があると蓋を開けて改造することになるのでちょっとハードルが高いと思います。

一方内部電源のメリットは何でしょうか。一つは音質的な所があると思います。電源と回路をマッチさせて最適な音質を出すという点ではメリットがあると思います。後は外部電源より電源経路が短くコンパクトになるのでメリットがあると思います。電源経路は一般的には短いほどロスが小さく、またノイズも受けにくくなるので良いと思います。

■どのような対策が考えられるか?

ここで先ほどの再生系をもう一度見てどのようなノイズ対策が出来るか検討してみます。

①のノートPCと②のDACは純正のACアダプターが使用されているので後回しにしようと思います。②のFiiO K7の電源強化にも興味があるのでACアダプターのスイッチングノイズがどれくらいありそうか測定して見たかったのですが微妙に手持ちのコネクターと合わなかったので測定できていません。合いそうなコネクターは手配したので入手出来たら測定してみましょう。

さて、③のヘッドホンアンプの電源のノイズカットの対策ですが、一つは別売のACアダプターをノイズの小さいものに取り換えるというのがあります。もう一つは現在のACアダプターから出ているノイズを何かフィルターを通してカットするというものです。

上の図でいうと5.フィルターを入れる。⇒フィルター沼ですね。

方針としては、ローコストで簡単な方から試して改善できなければ費用をかけるという感じです。必要が無ければ別にやらないでも良いのではないかと思います。ただ、人間欲が出るとキリがないの気が付くとやりたくなってお金もかけちゃったりするんですよねー。(苦笑)

さて、先ほどLT SPICEを使って抵抗とコンデンサの最もシンプルなフィルターを検討しましたので自作してどうなるか確認してみようと思います。

■抵抗とコンデンサのシンプルフィルターを自作する

という訳で、手配していたコンデンサと抵抗が来ましたので結線してみます。

えっ?こんだけ?と思われた方。そうです。こんだけです。電源フィルター沼に入るには最適でしょう。しかし、遊ぶ要素は満載です。回路図は下記です。

LT SPICEの波形ですが、緑色の波形がスイッチングノイズ、青色がフィルター後の波形です。抵抗値と容量値があっているスクリーンショットが無かったのですがまあこれくらいは効果がありそうです。

抵抗を1Ωから0.5Ωに小さくしたのは抵抗の発熱を抑えるためです。ノイズカットの効きは悪くなります。その代わりコンデンサの容量を470uFに大きくしています。これの理由は100uFの値のコンデンサが入手できなかったからでこの辺は実測しながら変更しても良いと思います。

■FiiO K7 DACの電源のスイッチングノイズを測定する

ここで、手配していたDCジャックが届きましたのでFiiO K7 DACの電源のスイッチングノイズを測定してみようと思います。

測定方法は前回と同じように電源の出力に測定ジグ(負荷20Ω)を接続してオシロで波形を観測します。測定ジグの電源ジャックは8セット売りがあったので購入しましたがどうも勘合サイズにばらつきがあるようで今回の電源ジャックは問題なく接続できました。

オシロの波形を見ると前回測定した汎用のスイッチング電源の波形とはだいぶ感じが異なることが分かりました。

前回測定したスイッチング電源の波形は下記ですね。

上の写真は波形の周期が一定でスイッチング周波数は50KHzといった固定周波数です。これは一般的なスイッチング電源のノイズ波形だと思います。

で、FiiO K7のスイッチング波形は細かい周期のノイズになっていますがスイッチングの基本周波数はときどきピークがあって100KHz程度と読み取れます。可視聴帯域が20KHzなので音に対する影響は少なくなると推測します。細かい周期のノイズは恐らく少し前に登場した周波数を変調(少し周波数を動かすイメージ)する周波数拡散タイプの電源回路を使っていて高周波ノイズ的には広い周波数帯域にわたって低減できるというものと推測します。そのためオーディオ用途に配慮した電源になっていそうです。

ノイズのピーク電圧は実測で18mVpp(7W出力時)でした。先ほどの汎用スイッチング電源が160mVppでしたから同じ電力の時、1/10程度です。これはノイズに関してまずまずかなと思います。FiiOさんは中々やりますね。FiiO K7 といえば価格的にはエントリークラスのDACだと思いますがコスパ的には高いものが有ると思います。K7の分解記事を他のカテゴリーでアップしているので興味がある方は見て下さいね。はい、こちら!

FiiO K7のスイッチングノイズが測定できたので資料をアップデートしておきましょう。

■シンプルフィルターのノイズ低減効果を確認する

作成したシンプルなノイズフィルターのノイズ低減効果を確認したいと思います。まず、どこに入れるかですが最初にスイッチングノイズが見つかった真空管ヘッドホンアンプ用のスイッチング電源の出力にフィルターを入れてみます。

一つ注意することはスイッチング電源のノイズの出る量は流れる電流(負荷)によって変わることです。その為、真空管ヘッドホンアンプの電源を入れてフィルター前とフィルター後のノイズ波形をオシロで確認することにします。効果出るでしょうか。ドキドキ。

測定系はこんな感じです。作成したシンプルなノイズフィルターを経由して真空管ヘッドホンアンプのDC入力に接続します。

下記が入力前のノイズ波形です。

そして、下記が出力のノイズ波形です。

おーー!ノイズが小さくなっています。パチパチパチ。

ここでついでに真空管ヘッドホンアンプTUBE02Jの消費電流を測定しておきます。抵抗の両端電圧をDCレンジでテスターで測定します。オームの法則から電流を算出すると260mA程度です。消費電力は0.26A×12V=3.12Wとなりました。

ノイズの最大振幅は106.4mVppから39.2mVppへと63%減っています。結構大きな効果ですね。ただ、LT SPICEのように理論通りにノイズが低減していないのは理想的な回路でシミュレーションしているからだと推測します。例えばコンデンサの内部抵抗分やコイル成分は0で解析しています。

後、注目するところはピーク電流の流れている三角形の波形が無くなっているところです。電流が変動する間隔が大きいほど音への影響が出やすいと考えられます。GNDに流れる汚いノイズの時間帯が増えるほどGNDの電位が大きく振られるのが問題なのかなと思います。GNDの電位が安定するほど音も安定になると考えています。

■まさかの嫁登場。ヒアリング結果は?

細かいノイズに関しては別途対策を考えることにして音も聴いておきたいと思います。

課題曲は星街すいせいさんの『stellar stellar』。冒頭のボーカルから彼女のきれいな歌声が出るかとか広がりのある音場感、シンセサイザーの音色の美しさなど聴きどころが多い曲です。冒頭のボーカルですがフィルターを入れたほうが綺麗な歌声になると思いました。フィルターをかける前後だとフィルターをかける前は少しざらつく感じがあったことに気が付きます。それがしっかり歌っている感じが出てきました。後はハーモニーとか聞き取りやすいかな。全体的に音がきれいに鳴ってシンセサイザーは艶やかになる感じです。しかし、アタック音とかの立ち上がりは少しなまるような感じもあると思いました。一長一短ですが最初にしてはこれはこれで良かったと思います。

コンデンサや抵抗の定数はとりあえず適当に選んでいるので改善の余地があると思います。要するに自分の好みの値にすればよいわけです。経験的なものですが抵抗は数Ω~20Ω程度が良かった記憶があります。抵抗値を増やすと発熱が増えるのが欠点ですのでやってみようという方は注意ください。

コンデンサは10uFから数千uFくらいは変更して遊んでも良いと思いますがACアダプターによっては突入電流が増えたりするので保護回路が働いたり故障の原因になるかもしれません。この辺は自己責任でお願いします。

さて、フィルター効果の確認という事で嫁を呼んで聴いてもらう事にしました。

注)本人の画像とは無関係です。また、一切本人の許可を取っておりません。

そしてオーディオの事は全く分からないです。

課題曲はとあるロックバンドです。(嫁が好きらしい)

『manotch』これが電源に入れるフィルターで作成してみたんだ。フィルターあり無しで音がどう変わるか試験している。
『嫁』ふーん。(興味なし)

『嫁』・・・。(聴いている)

『嫁』・・・ピックのこすれる音が聴きやすくなっているかな。あと低音が出てきている気がする。それから演奏している臨場感が増した感じ。でもギターの音がなんか弱くなっているような。

『manotch』心の声(ピックのこすれる音って何?えっ?もしかして耳がいい?)

『manotch』そうだね、確かに低音は出ている感じあるな。これはどういう効果なんだろう。分からないことは多いなぁ。

という訳で、シンプルノイズフィルターですが音的には変化があって効果も感じられたことをご報告いたします。一長一短ですけどね。オーディオ回路ではデカップリング回路といっていますがプリアンプなど電流が小さい回路では抵抗の発熱も小さいので良く使われている回路です。音も素直な傾向です。今回はこれをスイッチング電源のフィルターに応用してみたという実験でした。

今日はここまでにします。まだまだ続きます。最後までお読みいただきありがとうございました!

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『CA215さん』おいしい水(ノイズの少ない=雑味が無いおいしい水のイメージ)を使ってみそ汁を作るとみそ汁の具材の味が良く分かる。に近い感じ?
『manotch』そんな感じだろうなぁ。

【後日談】それぞれやったことの詳細は、オーディオの電源を強化しようのpart1~part9のいずれかに書きましたのでそれぞれのページを参考にして見て下さい。一応下記にリンクを貼っておきますね。

ACアダプターから発生するスイッチングノイズに気が付いたことから物語がスタートします。

FiiO K7やその他、ACアダプターから発生するスイッチングノイズをオシロで見てみました。また、対策としてシンプルなノイズフィルターを作成して効果を確認しました。まさかのあの人物もヒアリングをしてくれました。

シンプルな電源に入れるノイズフィルターの定数を変更して音の変化を確認しました。また、市販の電源に入れるノイズフィルターも試しています。

市販の電源に入れるノイズフィルターの使いこなしや音のインプレッションなどを書きました。電源沼楽しー。

ノイズが小さいリニア方式のACアダプターを試して見ました。また、スイッチングノイズをAMラジオで受信して音を聴いてみる実験を行いました。(動画あり)

超ローノイズのACアダプターというiFiさんの電源を試して見ました。音のインプレッションや電源ノイズの波形観測など行っています。

電源ラインの強化という事で電源タップをオーディオグレードに変えてみました。音のインプレッションや一般的な電源タップとの比較で内部を分解して構造を比較をしてみました。

究極の低ノイズ電源といえばバッテリーですね。乾電池によるバッテリー電源の音のインプレッションやLANハブからくるスイッチング電源のノイズを取るとどうなったかなど記事にしました。

今までのオーディオの電源を強化してみようpart1~part8までの総括になります。

By manotch

■自己紹介 manotch まのっち ■職業 以前、オーディオメーカーで回路設計と音質チューニングにたずさわってきました。専門はオーディオ用パワーアンプ、AVアンプ、デジタルアンプ、スイッチング電源など。現在もエンジニアとして仕事をしています。